炎のゴブレット
□20.第二の課題
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呪文学の授業中、ハリーとロン、ハーマイオニーは、3人だけで1番後ろの机を1つ占領していた。
今日は呼び寄せ呪文の反対呪文――追い払い呪文――を練習することになっている。
いろいろな物体が教室を飛び回ると始末の悪い事故にならないとも限らないので、フリットウィックは生徒1人にクッション1山を与えて練習させた。
私語をするには、このクラスはいい隠れ蓑だった。
みんなおもしろがって、3人のことなど気にも留めていないからだ。
ここ半時間ほど、ハリーは昨夜の冒険を少しずつ、ヒソヒソ声で話して聞かせていた。
「頼むよ、卵とユイのことはちょっと忘れて。スネイプとムーディのことを話そうとしているんだから……」
ハリーは小声で言った。
ちょうどそのとき、フリットウィック先生が、諦め顔で3人の傍をヒューッと飛び去り、大きなキャビネットの上に着地した。
桁違いの的外れ――ネビルのしわざだ。
「スネイプは、ムーディが研究室を捜索したって言ったのかい?」
ロンは興味津々で、目を輝かせてささやいた。
同時に杖を一振りして、クッションを追い払う。
「どうなんだろう……ムーディは、カルカロフだけじゃなく、スネイプも監視するためにここにいるのかな?」
「ダンブルドアがそれを頼んだかどうかわからない。だけど、ムーディは絶対そうしてるな」
「ムーディが言っていたけど、ダンブルドアがスネイプをここに置いているのは、やり直すチャンスを与えるためだとかなんだとか……」
「なんだって?」
ロンが目を丸くした。
ロンの次のクッションが回転しながら高々と飛び上がり、シャンデリアにぶつかって跳ね返り、フリットウィックの机にドサリと落ちた。
「ハリー……もしかしたら、ムーディはスネイプが君の名前を炎のゴブレットに入れたと思っているんだろう!」
「でもねえ、ロン」
ハーマイオニーがそうじゃないでしょうと首を振った。
「スネイプがユイの名前も一緒にいれるはずないわ。それに、前にもスネイプがハリーを殺そうとしてるって思ったことがあったけど、あのときスネイプはハリーの命を救おうとしてたのよ。覚えてる?」
(それはそうなんだけど……)
ハリーは完璧な追い払い呪文を見せるハーマイオニーを見ながら考えていた。
確かに、スネイプがユイを危険に晒すとは思えないし、一度ハリーの命を救っているのも事実だ。
しかし、スネイプはハリーを毛嫌いしている。
スネイプはハリーを減点処分にするのが大好きだし、罰を与えるチャンスは逃さない。
退学処分にすべきだと提案することさえある。
「ムーディが何を言おうが私は気にしないわ」
ハーマイオニーはしゃべり続けた。
「ダンブルドアはバカじゃないもの。ハグリッドやルーピン先生を信用なさったのも正しかった。だから、ダンブルドアはスネイプについても間違ってないはずだわ。たとえスネイプが少し――」
「――悪でも」
ロンがすぐに言葉を引き取った。
「だけどさあ、ハーマイオニー、それならどうして“闇の魔法使い捕獲人”達が、揃ってあいつの研究室を捜索するんだい?」
「私に聞かれてもわからないわ。――ユイなら何か知っているかしら?」
ハーマイオニーのクッションが、出来損ないの宙返りをして机から落ちた。
「あとでユイに会いに行ってみようか」
「ユイがスネイプを悪く言うとは思えないけど、少なくともクラウチのことは何かわかるかもね」
「そうね。怪我とかしてないといいんだけど……」
「ハーマイオニーは心配性だな」
ロンはクッションを勢いよく教室の端へ飛ばしながら言った。
「暗闇で躓いて転んだとか、頭を鎧にぶつけたとか、せいぜいそんなところさ」
ハーマイオニーは「そうね」と明るく返事をしたが、不安は的中した。
授業が終わった3人は、ユイを探し、医務室から出てきていないことを知る。
そして、面会謝絶の状態は1週間ほど続いた。
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