炎のゴブレット

□19.玉子と目玉
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「危なかったな、ポッター」



ムーディが呟くように言った。

ハリーが力なくお礼を言うと、ムーディは先ほどとっさに拾い上げた忍びの地図を引っ張り出して広げた。



「これは何かね」

「ホグワーツの地図です」

「たまげた。これは……これは、ポッター、大した地図だ!」



地図を見つめる魔法の目がグルグル回っている。

ハリーが助けを求め、騙し階段から足を引っ張りあげたてもらった後も、ムーディはまだ地図を眺めていた。



「ポッター……スネイプの研究室に誰が忍び込んだか、もしや、おまえ、見なんだか?」



ムーディがゆっくりと口を開いた。



「この地図の上でという意味だが?」

「え……あの、見ました……クラウチさんでした」



ムーディの魔法の目が、地図の隅々まで飛ぶように走った。

そして、突然警戒するような表情が浮かんだ。



「クラウチとな?それは――それは確かか?ポッター」

「まちがいありません。あと、ユイもいました」



ハリーはユイの名前を言ってから、わざわざ馬鹿正直に言う必要はなかったと後悔した。



「あ、でも、ユイの点は動いていませんでした。もしかしたら、気絶させられた後なのかもしれません」

「ふむ。クラウチ……それは、まっこと――まっこと、おもしろい……」



ハリーの心配をよそに、ムーディはクラウチのことに夢中らしく、ユイのことは右から左へと聞き流していた。

地図を睨んだまま、それから1分ほど何も言わなかった。



「あの、ムーディ先生……クラウチさんは、どうしてスネイプの研究室を探し回っていたのでしょう?」

「――ポッター、つまり、こういうことだ」



ムーディはどの程度ハリーに話すべきなのか、品定めをしているようだった。



「老いぼれマッド-アイは、闇の魔法使いを捕らえることに取り付かれていると人は言う……しかし、わしなどはまだ小者よ。バーティ・クラウチに比べれば」

「もしかして、クラウチさんは、何かが起こりつつあると考えたのでは……?」

「どんなことかね?」

「最近変なことが起こっているでしょう?日刊預言者新聞に載っています。ワールドカップでの闇の印とか、死喰い人とか……」



ハリーの質問に、ムーディはちぐはぐな目を両方とも見開いた。



「お前は聡い子だ、ポッター。クラウチもその線を追っているのだろう――ひょっとしたらモチヅキも」

「ユイも……?」

「ひょっとしたら、だ。あの娘もおまえの様に聡い。しかも怖いもの知らずだ。何かを探ろうとして、ばったりクラウチに出くわしてしまったのかもしれんな」

「だからって気絶させるなんてひどい……」

「ふむ。だが、わしが1番憎いのは、」



ムーディはハリーにというより、自分自身に言うように呟いた。

魔法の目が地図の左下に釘付けになっている。



「野放しになっている死喰い人よ……」



ハリーはムーディを見つめた。

ムーディが言ったことが、ハリーの考えているような意味だとしたら?


(違う。ありえない)


ハリーは心の中で首を振って否定した。

クラウチはどうだか知らないが、ユイはスネイプの研究室に忍び込んだりなどしない。

悔しいがこれはスネイプの考えに賛成だ。

毎日のようにスネイプの研究室に出入りしているユイなら、わざわざ夜中に行動を起こす理由がない。

そもそも、盗みに入らなくたって、スネイプは喜んで数少ない自分の味方に材料を与えるだろう。


(味方……)


スネイプが、もしハリーの考えている通りの人物で、ユイが、スネイプの味方だったら――なんて、考えたくもない。



「ポッター、これをわしに貸してくれるか」

「どうぞ……」


(敵だからクラウチに気絶させられた、とかじゃないよね?)



ハリーは、上の空でムーディに地図を貸す約束をした。




20.第二の課題
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