炎のゴブレット

□19.玉子と目玉
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ユイの背中にぞくっと悪寒が走る。

ムーディの魔法の目は、透明マントを見通す。

では、変身術はどうだろうか――。

じりじりと後退するユイに大股で近づいたムーディは、黒猫の首根っこを捕まえスネイプの研究室の中へ入った。



「ユイ・モチヅキ――未登録のアニメーガスは違法だと知っての行いか?」



松明に火を点し、ドアをしっかりと閉め、ムーディは歪んだ裂け目のような口の端を吊り上げた。

瞬間、ユイの脳裏に、ワールドカップの会場で見た、クラウチJr.の、歯をむき出しにした笑いがよぎった。



『――ちょっとしたお遊びです。ポリジュース薬を使って、他人の立場を乗っ取るよりかはかわいいものだと思いますが?』



ユイは変身を解き、ムーディを睨みつけた。

ポリジュース薬の名前を出され、怯むかと思ったムーディは、ユイの予想に反して、不気味な笑いの表情をより強めただけだった。



「モチヅキ、1度ゆっくり話がしたいと思っていた。まさか、こういう形で話をすることになるとは思わなかったがな」



ムーディは杖を取り出し、ユイの喉元に向け、魔法の目をぐっとユイに近づけた。

姿こそまだムーディではあったが、纏っている雰囲気はもはやムーディとは別人だった。



「お互い、身をばらされるのは避けたい――そうだろ?」

『脅しですか?私は別にアニメーガスのことをばらされたくらいで――』

「ではこちらはどうだ?」

『――っ!』



ムーディがユイの右手をひねり上げ、ドアに叩きつける。

青い目の動きに意味を察したユイは、自由が利く左手で服の上からロケットを握った。


(いつから……?)


手形とグリフィンドールの首飾りのことを知られている、とユイは悟った。

黙り込むユイを見て、ムーディは声をあげて笑った。



「物分りがいいな。自分が置かれた状況を冷静に分析できるようだ――魔力も問題なし。とっさの判断も悪くない。残るは思想か」

『何がよ』

「お前を仲間として認めるかの試験だ」

『勝手に話を進めないで!だいたい、とっさの判断ってどういうこと?――第一の課題で壁を消したのはやっぱりあなただったの!?』

「そうだ。ドラゴンを傷つけまいとするような、あんな生易しい戦い方は気に入らない。絶体絶命の状況でどうドラゴンを殺しにかかるか見たかったのだが、いらぬ邪魔が入った」

『……』

「さて、時間もないことだし最終試験といかせてもらおう。ルシウス・マルフォイやセブルス・スネイプにずいぶんと肩入れしているようだが、死喰い人をどう思う?」



主を裏切り、嘘をつき、のうのうと生きているやつらを許せるか?とムーディの中のクラウチJr.が敵意をむき出しにした声で問う。



『私は、2人とも好きですよ。あなたの思い通りにはさせません!ハリーを優勝させるつもりはないし、ヴォルデモートを復活なんてさせない。ダンブルドアに全てを話すわ!』

「クククッ、なるほど。ではやはり無理やり連れて行くしかないようだな」

『……っ』

「そうだ。これだけ話をした後に無事に帰すわけにはいかない。――だが、あいにく我が君に、お前を丁重に扱えと言われている。今日のところは記憶を消す程度で手を打ってやろう」



松明の灯りに照らされたムーディは、傷とはまた別の歪みを顔に作りながら、口元に大きく弧を描いた。



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