炎のゴブレット
□19.玉子と目玉
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それから数日の間、スネイプからの視線を感じることがあったが、ユイがもとの姿に戻り、新学期が始まるとそれも気にならなくなった。
代わりに授業が一緒になるたびにハリーからの視線を感じるようになり、当然のことながらスリザリン生達はそのことに対して嫌悪感を露にした。
『次の課題に向けて相談したいんじゃないかな?』
「だったら余計ムカつくな」
『どうして?一緒の代表なんだし、良くない?』
「良くない!勝手に卵を持ち帰っておいて、謎が解けないから手伝ってほしいだなんて、虫が良すぎる話だろ」
『そうかなぁ?』
ユイとしてもハリーの相談に乗るつもりはなかったが、1月下旬にセドリックがハリーに卵のヒントを与えているのを偶然目にして、気持ちが変わった。
最近のハリーの様子から、ダンスパーティの日にセドリックがハリーに卵のヒントを与えるという原作の流れでは無いとユイは判断していた。
だが、まだ第二の課題の2日前でもない。
ということは、映画の流れとも異なる。
ハリーが監督生用の風呂場に忍び込んだ日に、ムーディがスネイプの研究室に忍び込む可能性はまだ残っている。
(うまくいけば、ムーディの尻尾をつかめるかもしれない)
夏休みに、ユイはダンブルドアにムーディのことを進言した。
だから、ダンブルドアの目を騙してクラウチJr.がホグワーツに進入できたとは考えにくいが、絶対だとは言いきれない。
それでも今までの展開は十分すぎるほどクラウチJr.の関与を示唆している。
『ハリー!』
ユイは、セドリックと別れたハリーに声をかけた。
***
さすがにハリーと一緒に風呂場へ行くわけにはいかないため、ユイにできることはハリーが風呂へ忍び込む日を木曜日の夜にするよう誘導することくらいだった。
今自分にできることはこのくらいしかない。
ユイは木曜日の夜中に寮を抜け出し、黒猫の姿でスネイプの研究室へ向かった。
部屋の近くの銅像の横で丸くなり、廊下に足音が響くのを待った。
(現行犯でムーディを捕まえたくらいで正体を明かせるなら、ダンブルドアがとっくに気づいていると思うんだけどね……)
本来、ユイがやろうとしていたことはこんなことじゃなかったはずだ。
どこで間違えたのだろう。
第一の課題で40点とってしまったとき?
ゴブレットに名前を入れたとき?
クィディッチ・ワールドカップにいったとき?
どれも違うような気がする。
計画が、計画として動いていない。
そもそも、自分は今年1年、どんな計画のもと行動する予定だったのか……。
(なぜか、違和感があるのよね……何か、見落としている?)
ダンブルドアが映画で言っていたセリフがユイの気持ちを的確に表していた。
(うーん……頭が働かないわ……)
しばらくして、義足を引きずる音が聞こえ、ユイは現実に意識を引き戻し、闇の奥に目を凝らした。
(どのタイミングで出て行くのがいいんだろう)
ドアの前で待ち構えていたのでは意味がない。
見回りだと言われておしまいだ。
中に入って材料を手に取った時でもダメだ。
ムーディなら「スネイプが何かを隠していないか、怪しいから調べている」と言い逃れできる。
(バンバンという音と、泣き叫ぶ声――に賭けるしかないわね)
スネイプが聞いた声が、アラスター・ムーディ本人のものだとしたら、その瞬間を抑えれば言い訳はできないだろう。
ユイが銅像の影から様子を伺う。
暗くてよくわからないが、ムーディは辺りに誰もいないか確かめているようだった。
廊下の隅から隅まで、顔を動かし、義眼を動かし、徹底的に調べ上げた。
そして、青い魔法の目が、黒猫を捕らえた。