炎のゴブレット
□13.ハンガリー・ホーンテール
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それでもハリーは11時半になると談話室を抜け出した。
ハグリッドが自分からそんなに夜遅くに来るよう頼むなんて、初めてのことだった。
「どこに行くの、ハグリット?」
「じきわかる。大事だからよーく見ちょれよ」
ハグリッドは胸に育ちすぎたアンティーチョークのような花を挿していた。
髪の毛にも欠けた櫛の歯が絡まっていて、梳かそうとしていたことがわかる。
そのことをハリーが指摘したとき、森の奥から恐ろしい咆哮が聞こえた。
その直後に、マダム・マクシームが現われた。
ハグリッドはマダムとも待ち合わせをしていたらしい。
艶っぽい声を出すマダム・マクシームと会話をしながらさらに森の奥へ進むハグリッドについていったハリーは、火柱を見てあんぐりと口をあけた。
(あれは……?)
男達が怒鳴り声をあげながら炎を吹き上げる囲いの周りを走り回っている。
分厚い板で柵を巡らした囲いの中から、次々と暗い夜空に向かって火柱が上がる。
炎に照らされて柵の中がチラリと見えたとき、ハリーは息を飲んだ。
「ドラゴンだ!」
マダム・マクシームがハグリッドから離れてドラゴンを見に行った隙に、ハリーは透明マントから顔を出した。
「これが最初の課題!?冗談だろ?」
「あのなハリー、ドラゴンてのは大いに誤解されちょる」
怖がるなとハグリッドが弁解する間もなく、真ん中の柵が倒れた。
頑丈な鉄の檻の中で、いかにも凶暴そうなトカゲに似たドラゴンが暴れまわっている。
暗闇にハリー達がいることがわかっているかのように、10メートルもあるかというような巨大な炎を吐き出した。
「――っ!!」
ハリー達のほんの数メートル先の茂みが燃えた。
「……まあ確かに、ハンガリー・ホーンテールはちょいとばかし気が荒いけどな」
(どこが“ちょいとばかし”!?)
ハリーはすぐにユイに知らせなきゃと思った。
一頭を抑えるのに7〜8人の大人の男達が悪戦苦闘しなくてはいけないような相手に、ユイが1人で挑むのなんて無茶だ。
(素直に2人で出ていればよかったんだ!)
禁じられた森の端に沿って走りながら、ハリーは身震いした。
(明日になったらユイに伝えて、ダンブルドアに言いに行こう)
まだ第一の課題に挑戦するのがユイだけということは他の人たちには知られていない。
今からでも2人に戻してもらえるかもしれない。
自分もあのドラゴンと対峙しなくてはいけなくなるかと思うと、2人に戻してもらう提案をするのは気が引ける。
だがそれ以上に、ハリーは恐ろしくて仕方がなかった。
(第一の課題がドラゴンなら、第二の課題は……)
ドラゴン以上の相手に1人で立ち向かわなくてはいけなくなることを考えると、今にも吐きそうだった。
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