アズカバンの囚人

□27.一夜明けて
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「シリウス・ブラックは釈放になった」



突然話がシリウスのことに飛んだことに驚き、ユイは顔をあげた。



「セブルスが証言してくれての……あのセブルスが、シリウスは無罪だと主張した……わしも驚いたよ」



子ども達だけの話では大臣を納得させることはできなかっただろうとダンブルドアは嬉しそうに話した。



「真犯人が逃げた今、完全なる無罪を証明するのは難しいことじゃが……君達はシリウスを恐ろしい運命から救った」

『ハリーが、パトローナスでディメンターを追い払ってくれたおかげです』

「そうじゃな。あの子はよくやってくれた。じゃがユイ、君の働きも大きかったことを忘れてはならん」



人差し指を立て、ダンブルドアは1つ1つ言葉を選ぶようにしてゆっくりと話し始めた。



「まずシリウスじゃが、彼は文字通り君に命を救われた。ユイが彼を匿い、諭していなければ、無罪を主張するのはより難しくなっていたはずじゃ」



シリウスなら、なりふり構わずハリーに会おうとしたり、スキャバーズを襲ったりする。

そうして自分に都合の悪い事実を積み上げていきそうだ。

そう、ダンブルドアはまるでユイの記憶の中を垣間見るように的確なことを言った。



「北の塔を使うとは考えたな。うまく利用されたわい」

『ご存知だったんじゃないですか?シリウスが隠れているとしたら地図に載らないあそこしかないと……』

「地図?はて、なんのことやら」



ダンブルドアはとぼけた。



「12年も信じられてきたことを覆すのは並大抵のことではない。真犯人が捕まっていないとなればなおさらじゃ。シリウスはこれからもしばらくは偏見と裁判と戦っていかねばなるまい。じゃが、彼の心はとうに救われておる……ユイのおかげじゃ」

『……』



ダンブルドアが言わんとしていることがわかってきた。

存在しないことを恐怖とし、生きる意味を見失いかけているユイに、その意味を、諭そうとしているのだ。



「リーマスも、ずいぶんとユイに救われたようじゃよ」

『ルーピン先生が?』

「自分が人狼だと知っても普通に接してくれると」

『そんな……当然のことです』

「そう、それじゃ。狼人間だからと疑いをかけられたとき、“そんなこと”と言われたと、笑っておったよ」



叫びの屋敷での出来事を語る途中で、「自分にとって最も悩むべき忌まわしきことを、“そんなこと”と一蹴された」と、リーマスは苦笑いしたそうだ。


(言ったかなぁ……?)


あの時は夢中で、自分でも何を言ったのかよく覚えていない。

ただ、言ってはいけないことを口走ってしまった気がする。


(未来が見えること、感づかれちゃったよね……)


少なくともリーマスにごまかすのは、ほとんど不可能に思えた。
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