アズカバンの囚人
□27.一夜明けて
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廊下には生徒の姿はほとんど見られなかった。
試験が終わった週末を、ホグズミードで満喫しているのだろう。
既に日は高く上り、外はうだるような暑さだ。
昼になってしまっていることに、ユイは焦りを感じた。
もう、すべてが手遅れなんじゃないかと、嫌な汗が背中を伝う。
『ええと、えっと……(合言葉が、わからない!!)』
ガーゴイルの像の前で、ユイはうろうろと立ち往生した。
思いつく限り、片っ端からスイーツの名前を言ってみるものの、像はピクリともしない。
『ひ……開け、ゴマ!』
やけくそになって叫ぶと、ゴゴゴ……と低い音がして石造りの螺旋階段が動き出した。
だがそれは、ユイの合言葉によってではなく、中から人が出てきたためだった。
「君は確か……」
『あ、あの!シリウスはどうなりました?』
階段が止まるのを待ちきれず、ユイは飛び込むようにしてファッジに詰め寄った。
「おやユイ、もう具合はいいのかの?」
『校長先生!ルーピン先生は?まさか、辞めたりしないですよね!?』
「これこれ、大臣が困っておるわい」
『あ、すみません……』
ユイが手を放すと、ファッジは困惑気味の表情で襟を正した。
部屋のドアから顔をのぞかせていたダンブルドアは、ファッジを見送り、ユイを手招きして部屋の中へ入れた。
*
みんながいると思っていた校長室には、誰もいなかった。
「まず最初に、わしはユイに謝らねばならぬ」
ダンブルドアの言葉に、嫌な予感がつのる。
せわしなく目を動かし、口を開こうとするユイをダンブルドアが手で制した。
「ユイがシリウス・ブラックが無罪だと確信していると、わしは気づいておった……にもかかわらず、わしは何1つ手助けをしてやれんかった。さぞつらく、思い悩んだ1年だったじゃろう」
『いえ、いいんです。これは私の問題ですから。それで、シリウスの無罪は証明されたんですか?』
「そう急ぐでないユイ。時間は十分にある」
ダンブルドアはウインクをして、ユイにイスを勧めた。
その柔らかい表情に安堵し、ユイは近くのふかふかのソファに腰を下ろした。
「ルーピン先生の試験で倒れたと聞いてわしは後悔した。そこまでユイを追いつめてしまっているとは思っていなかったのでの……ユイの強さ――もちろん精神的にも、能力的にもじゃ――それに甘えておった。いったい何を見たんじゃ?」
『何も……』
何も存在しない空間に放り出されたことをユイが告げる。
思い出しただけで震えそうになるのを体をさすって堪える。
ダンブルドアはひげを撫で、頷きながら聞き、「そうか」と呟いた。