アズカバンの囚人
□23.動物もどき
5ページ/5ページ
地上に残されたハリーとハーマイオニーは、城には戻らずにロンとユイを追う方を選んだ。
半ばハーマイオニーに投げられるようにして暴れ柳の木の根元に入り込んだハリーは、杖を取り出し暗いトンネル内を照らした。
「この穴はどこへつながっているのかしら」
「多分あそこだ。違うといいけど……」
石段を登り、延々と続く通路内を歩き、捻じ曲がった道を進み、2人は古ぼけた屋敷内にたどり着く。
窓に打ち付けられた木の隙間から、わずかに外からの光が差し込んでいる。
ハーマイオニーが恐怖にこわばった顔でハリーの腕を掴んだ。
「ここは叫びの屋敷でしょ?ねえハリー、やっぱり校長先生に助けを呼びに行くべきだったんじゃない?」
「ダメだ。あいつはロンを食ってしまうほど大きいんだ。そんな時間はないよ――それに」
ハリーはどうか聞き間違いであってほしいと願いながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
「それに、ユイが“シリウス、ロンを放して!”って叫んでた――ここにブラックがいるんだとしたら、早くしないと2人の命が危ない!」
「なんですって!?だったらよけいに行くべきじゃないわ!」
凶悪な殺人犯に子どもだけで太刀打ちできるはずがない、ハリーは命を狙われているんだから近づいちゃいけないと、ハーマイオニーはハリーを穴に引き戻そうとした。
だがその時、頭上で何かが軋む音がした。
何かが上の階で動いたのだ。
2人は天井を見上げ、息を殺した。
すぐに、ロンの叫び声が屋敷内に響いた。
「……行こう」
ハリーが眉をちょっと上げてハーマイオニーに合図をすると、ハーマイオニーは決心したようにコクリと頷いてハリーの腕を放した。
2人は足を踏み出すたびにギシギシと音を立てる不安定な階段を駆け上がり、叫び声のする部屋へ飛び込んだ。
壁紙は剥がれ落ち、戸板はところどころ腐り、家具という家具は、まるで誰かが打ち壊したかのように破損している。
床には埃がたまっており、階下から続いた跡の先に、スキャバーズをかかえたロンが座り込んでいた。
「ロン!」
「ロン!無事なの?」
「あの犬はどこ?」
「ユイは――」
「違う罠だ!」
ロンは震えながら2人の背後に指先を向けた。
「犬はあいつだ!動物もどきだ!」
ハリーがくるりと振り向く。
ギギッという不気味な音を立て、ドアが閉まった。
入り口からロンまで続いている黒い線とは別にある足跡の先に、ボロボロの服を着て、目をギラギラとさせた男が1人立っていた。
――シリウス・ブラックだ。
「そんな」
ハーマイオニーが小さく悲鳴をあげた。
シリウス・ブラックは右手に杖を持ち、左手で泣きそうな顔のユイの肩を抱いていた。
→24.敵か味方か