アズカバンの囚人
□21.クィディッチ優勝杯
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これで未来が変わる。
来年以降はどうなるかわからない。
期待と共に不安がユイを襲った。
「さあ、心を広げて見るのです。かなたを!」
この際占いだろうがなんだろうが、少しでも先を予測できるきっかけがあるに越したことはない。
お決まりの文句を言うトレローニーの言葉を聞きながら、ユイは水晶玉の中を食い入るように見つめた。
「どうしたのよ急に真面目になっちゃって」
『ふふふ、内面を磨いてこそ女は美しくなるのよっ』
張り切るユイは、呪文学の“元気が出る呪文”の後遺症が残っているんじゃないかと思われるほどテンションが高い。
じーっと白い霧を見続けるユイを前に、パンジーとミリセントは信じられないといった表情で顔を見合わせた。
「最近、またおかしくなったんじゃない?」
「そうみたい。元気になってきたかと思えばこれだもの」
「“ほどほど”って言葉を知らないのかしら」
「知ってたらこうはならないわよ」
週末を境にユイは目に見えて体調がよくなっていた。
以前の明るさを取り戻し、思いつめた表情をすることもなくなり、目の下の隈もすっかりなくなっている。
それでも素直に喜ばしいことだと言えないのは、この意味不明な発言のせいだった。
「玉の内なる、影のような予兆をどう解釈するか、あたくしに助けて欲しい方、いらっしゃること?」
腕輪をチャラつかせながらトレローニーが呟くように言うのを聞き、ユイは勢いよく手を挙げた。
ユイは最初の授業でトレローニーにたてついているため、クラスの何人かが興味を示し、自分達の水晶玉から目を離した。
『これって、白い煙の部分を見ればいいんですか?煙がスクリーンになったりするんですか?それとも影の部分が何かをかたちどるんですか?』
「まあ。外なる眼でありのままの形を見ようとなさっては、未来は永久に見ることはできませんわ」
トレローニーは自分の言ったことが伝わっていなかったのかと嘆き、センスがない者には一生かかっても“見える”ようにはならないとユイに告げた。
ラベンダーとパーバティがクスクス笑っている。
暗に「お前には無理だ」と言われたようで、ユイはむすっとして水晶玉に目を落とした。
(ハリーにだって見えたんだから、私にも見えるはずよ)
映画では、ハリーは水晶玉のなかにシリウスの顔を見ている。
ということは、水晶占い自体はインチキでもなんでもなく、本当に未来を見せてくれる可能性を秘めているということになる。
ユイは全神経を玉の中の霧に集中させた。