アズカバンの囚人

□20.スネイプの恨み(後編)
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ユイがひと息つくと、ふいに顔に何かが触れた。

わずかにひんやりとした感覚がユイの輪郭をなぞり、肩へ降りる。



『――え?』

「いつまで座り込んでいる気だ」



声と共にぐっと腕がひっぱり上げられる。

バランスを崩したユイは、また転ぶ!と目を瞑ったが、何かに軽くぶつかるだけに留まった。

恐る恐る目を開けると、そこには黒い壁と――


(壁?)



「まったく世話が焼ける……」

『――ッ!』



すぐ近くの頭上からスネイプの声がして、やっとユイは状況を理解した。

ユイはバランスを崩した拍子に、スネイプの胸板にダイブしていた。

つまり、今、ユイはスネイプに抱きとめられている状況で――


(あわわわわわわわわっっ!!!)


パニックになって飛びのこうとしたユイの腕をスネイプがひっぱる。



「何度同じことを繰り返せば気がすむのだ」



スネイプは杖先に小さな明かりを灯し、再び壁に頭を強打するところだったユイを連れて来た道を引き返した。







暗闇でよかった、とユイは思った。

真っ赤になったひどい顔は見られなくてすむし、足元がよく見えないことを理由にスネイプの腕をつかんでいられる。



『教授、怒ってます?』

「……」

『ルーピン先生のところに行ってたんじゃないのは本当ですからね』

「……」

『あの、もしかして妬いてます?――なんちゃって』

「……」



スネイプが返事をしないことをいいことに、ユイは『今この状況って密会ですよね』『教師と生徒が2人で出歩いているのがばれたらまずいですよね』『寮まで行かずに教授の研究室に隠れてましょうよ』と、前を行くスネイプに向かって次々と投げかけた。



「……馬鹿者が。我輩の研究室より寮のほうが近い」

『へ?』



急に真面目に的外れな返答をしたスネイプをユイが見上げる。

視線に気づいたスネイプは、ユイに顔を向けることなく「ひどい顔だ」と小さく鼻で笑った。



「ここが月明かりの届かぬ地下であって助かりましたな」

『んな!い、いつ見たんですか!』

「見なくともわかる」



寮の入り口までくると、スネイプはユイを腕からはがし、ぼそぼそっと何かを呟いてローブをひるがえした。



『え?今なんて?』

「……出歩いていた理由に関しては明日じっくりきかせてもらう、と」

『っは、はい!』



スネイプと別れたらすぐにまたフクロウ便を出しに行こうと企んでいたユイは、おとなしく部屋に戻ってベッドへもぐりこんだ。


――あまり無理をするな。心配をする側の身にもなってみろ。


確かにそう聞こえた気がしたからだ。





21.クィディッチ優勝杯
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