アズカバンの囚人

□20.スネイプの恨み(後編)
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(えっ、ちょっとリーマス!無理やりひっぱってきておいて置いていかないでっ!!)


いま、スネイプは近年稀に見る機嫌の悪さだ。

会いたくもないハリーに会い、地図に馬鹿にされ、ハリーを罰し損ねたばかりか、肝心の証拠の地図はルーピンに取られた。

おまけに変な誤解までしている。

ユイは無理やり笑顔を作ったが、自分でも顔が引きつっているのを感じた。



『え、えっと……』

「……」



スネイプは、無言でふいっと杖先を反転させた。


(ええっ!シカトですか!?)


絵画に「明かりを消せと言っただろ!」と怒鳴られたスネイプは、杖を軽く振り、暗闇の中を歩き始めた。



『ちょ、教授、待っ――っと、わっ』



1人取り残されかけたユイはあわてて暗闇に手を伸ばし、スネイプのローブをつかんだ――はず、だった。



『ぅわわわわわ!?』



ローブをつかむより先に足で踏んづけてしまい、ユイは盛大に転んだ。

暗闇にまだ慣れていない目では何が起こっているのかわからない。

だが、とりあえず全身が痛いし、人が倒れるような音がしたから、自分は今床に転がっているんだろうなということは推測できる。

とりあえず体を起こそうとして、ユイは再び何かにぶつかった。



『っぶ!』

「Ms.モチヅキ、いったいなん『えっ、スネイプ先生!?うわわ、すみ…ぃだッ!』――何をしている」



思いがけず近くから聞こえた声に、あわてて後ずさりしたユイは、後頭部を何かに強打した。

おそらく壁だ。

頭上から絵画が鼻で笑う声が聞こえてくる。



『痛たたたた……あ、教授大丈夫ですか?』



頭をさすりながら目の前にいるであろうスネイプに向かって声をかける。

転んだユイの間近から声がしたということは、スネイプも転んだに違いない。

さしずめユイにローブを踏まれたスネイプがつんのめり、それにひっぱられるようにユイが倒れ――という流れだったのだろう。



『……教授?』



とりあえず1度明かりをつけようとユイは立ち上がり、そして、脳天が額縁にヒットした。



『ったぁ……(何よこの仕打ちは!)』



もういいやと何かを諦め、ユイは壁際に体育座りをした。



『なんか、いろいろとご迷惑おかけしてしまってすみませんでした』



とりあえず謝ってはみたものの、返事はない。

立ち去った気配はないから今も近くにいるのだろうが、全身に闇色を纏ったスネイプの姿は、この暗闇の中では輪郭すら捉えることができなかった。



『眠れなくて天文台に忍び込んで星を見ていたんです。で、帰り際にルーピン先生に見つかっちゃって……』



ユイは目の前に広がる黒い空間へ向かって話しかけた。

といっても2人でスネイプの前に登場するにいたった経緯を一通り話し終えるまで、スネイプは相槌1つとらなかったため、独り言同然だった。



『って、これ実はもう誰もいなかったらウケますね……』



ユイがため息をつくと、かすかな衣擦れの音が聞こえた。

どうやら置いてきぼりは免れたらしい。
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