アズカバンの囚人
□20.スネイプの恨み(後編)
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ハリーを問い詰めている最中に背後からかけられた声に振り返ったスネイプは、ありったけの嫌味を込めた猫撫で声でリーマスに話しかけた。
「おやおや、ルーピン。散歩ですかな?この月夜に――……あぁ」
リーマスの後ろに小さな影を見つけてスネイプは眉をよせた。
「ただの散歩ではなさそうですな。ホグワーツの教師ともあろうものが、こんな時間に生徒を連れ歩くなど、問題ですぞ」
問題の生徒は杖の光から顔をそむけるようにして壁際に身を寄せているが、正面から確認しなくてもわかる。
ユイ・モチヅキだ。
スネイプが名前を呼ぶと、肩をびくっと震わせた。
その肩から伸びる華奢な腕は、片方は顔を隠すようによれよれのカーディガンをひっぱり上げ、もう一方は、あろうことかカーディガンの持ち主の手とつながっている。
「ずいぶんと仲がよろしいようですな。夜遅くに人気のないところで、いったい何をしていたというのだね」
「セブルス、これは――」
「言い訳はやめたまえルーピン、見苦しいぞ。この件は校長に報告する。貴様ももう終わりだな。夜な夜な生徒を連れ込むなど、満月を理由にすることは……」
『へ!?スネイプ先生、違います。なんかものすごく勘違いしてます!』
あわてて手を離して弁解するユイの顔は疲労の色が浮かび、目尻はわずかに赤かった。
「違う?では君のほうから押しかけているのかね、Ms.モチヅキ。それならば君の退学も免れまい」
『ちょ、え?えぇっ!?』
「セブルス、だから――」
「ルーピン、言い訳は聞かぬと言ったであろう、もっとも、人目を忍んでこんな人気のない廊下に2人でいる理由が密会以外であるのであればぜひお聞かせ願いたいものだが」
「夜中に2人でいるのが全て密会なら、君も今ハリーと密会していたことになるよ」
「貴様何をふざけたことを!」
「……ハリー、大丈夫かい?」
埒が明かないと判断し、スネイプの説得を諦めたリーマスは、何がなんだかわからずオロオロするハリーへと目を向けた。
ハリーは目を泳がせたまま顔を小刻みに縦に振った。
スネイプはハリーの存在を今まで忘れていたかのように、ルーピンの言葉に反応してハリーの手の中にある羊皮紙をすばやく奪った。
「たった今ポッターから没収した興味深い品だ。見たまえルーピン、君の専門分野だと拝察するが……あきらかに闇の魔術が込められている」
「それはどうかな、セブルス。私には読もうとするものを侮辱するだけの、羊皮紙にすぎないように見えるがね……ははっ、ゾンゴの店の品じゃないか?」
リーマスが乾いた笑いを発しながら指先で羊皮紙をはじく。
ユイが首を伸ばして覗き込むと、ハリーがこちらをじっと見ていることに気づいた。
没収された忍びの地図でもなく、地図とリーマスに憎しみの目を向けるスネイプでもなく、リーマスの脇から顔をのぞかせているユイを、じっと見ている。
(なんだろう?)
ハリーに注視されるような心当たりはない。
一瞬、先ほどの会話で変な誤解をされたのかとも思ったが、その手の興味や軽蔑を含んだ視線ではない。
もっと探るような、心配するようなものだ。
「だが一応、隠された力がないかどうか調べてみよう」
伸ばされたスネイプの手から遠ざけるようにリーマスが開いた羊皮紙を抱え込んだことで、ハリーが見えなくなった。
「君も言ったように、私の専門分野だからね」
チクリと棘を刺しながらリーマスは羊皮紙を小さくたたんだ。
にらみ合うリーマスとスネイプの間に火花が散るのが見えた。
「ハリー、一緒に来たまえ。ユイ、君はセブルスと行くんだ」
ハリーとユイがハッとして同時にリーマスを見る。
スネイプは杖をハリーに向け、苦々しげな表情をしながらその後を追って照らし、ユイの姿が浮かび上がったところで手を止めた。
「では、おやすみ」
リーマスはわざと口を大きく開けてはっきりとスネイプに対して言い、「おいで」とハリーを促した。