アズカバンの囚人

□11.不協和音
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お互いを見つめたまま、しばらく沈黙の時間が続いた。



「……言いたいことがあるなら言え」

『次の満月の日に防衛術の授業があります』

「そのようだな」

『スネイプ先生が代理で防衛術の授業をなさるんですよね?』

「……さよう」

『次はヒンキーパンクをやる予定です』

「だからなんだね?」

『人狼は、止めてください』

「……夢、か?」



短く発せられた言葉に、ユイは目線を合わせたまま頷く。



『喧嘩をするのも、ルーピン先生の性格の悪さについてあれこれいうのも目を瞑ります。でも、本人は悪くない――本人にはどうしようもない、身体のことについて攻撃するのは黙って見ていられません』

「断るといったら?」

『お願いします!なんでも言うこと聞きますから……ルーピン先生に近づくなと言うなら近づかないようにします。だから――お願いです、ルーピン先生がホグワーツにいられなくなるようなことはしないでください!』

「そこまでルーピンが大事か?あんなやついなくとも――」

『どうしてそんなこと言うんですか!?』



ユイはほとんど泣きそうだった。

なんだというのだ。

どうしてそこまでルーピンにこだわる。

闇の魔術にも防衛術にも長けてるとは思えない、あんなやつのどこがいいのか理解できん。



「チッ……」



やはり、断固としてルーピンの就任は阻止するべきだったのだ。

やつがホグワーツに来てからろくなことが無い。

ホグワーツ特急では吸魂鬼が襲い、ボガートの授業ではネビル・ロングボトムを使ってスネイプを笑いものにし、ユイは今学期に入って痩せる一方だ。

食事もそっちのけで人狼について調べたり、ルーピンの部屋を訪ねているのかと思うと虫唾が走る。



『教授』

「まだあるのか」

『私、人狼でも腹黒くてもルーピン先生が好きです。だから、助けたいんですよ』

「そういうことは本人に――」

『でも、1番好きなのはスネイプ教授です』



さっきまでの泣きそうな表情はどこへやら、ユイの顔には笑みが浮かんでいた。



「……そうやって、我輩の機嫌をとる気か?」

『違いますよ。もしかしたら、嫉妬のほうかなと思ったので念のため、です』

「馬鹿ものが」



何が念のためだ。

ここで行かせたら嫉妬だと認めたようなものではないか。



『ルーピン先生みたいに腹黒いことしないでください。教授は優しいから、きっと分かってくれるって私は信じてます……だから、もう一度考え直してください』



そう言って懇願するユイの姿を見ているうちに、気づくと口が勝手に「考えておこう」と口走っていた。



『ありがとうございます!では、さっそく薬を届けてきます!』

「近づくなと先程言ったはずだ」

『届けないと、狼に変身しちゃうじゃないですか』

「だからといってモチヅキが行く必要は――待て!」



声を荒げるも、すでにそこにはユイの姿はなかった。


(くそっ、どうしてこう危機感がないんだ!)


スネイプは作りかけの脱狼薬をしばらく眺めていたが、数分後には暗い廊下に靴音を響かせた。



***
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