アズカバンの囚人

□11.不協和音
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30分後、ユイが息を切らして戻ってきた。

スネイプが作り置きしておいた薬をなんのためらいもなく持っていこうとするユイを前に、自然とスネイプの眉間にしわが寄る。



「届けに行く気か?」

『そうするよう、昨日おっしゃいましたよね?』

「……気が変わった。ルーピンにこれ以上近づくな」



自分でも驚くほど低く冷たい声が口から出て教室内に広がった。

ユイは怯えを見せるでもなく、スネイプの目の前まで来て机の反対側に座り、感情の読み取れない顔を向けた。



『それって、やきもちですか?それとも、ルーピン先生が人狼だからですか?』



表情だけではなく、言葉からもユイの真意が読み取れない。

どこをどう考えたら“やきもち”という単語が最初に出てくるというのだ。

なぜ我輩がルーピンごときに嫉妬せねばならんというのだ。



『前者なら考えます!でも後者なら――それは差別です。従えません』

「我輩は昨日、ダンブルドアに君を頼まれた」

『それとこれとは話が違います』



ユイの声は断固とした決意に満ちている。



「違わぬ。ルーピンは危険極まりない。あのようなやつが教師など我輩は認めん」

『薬があれば危険じゃないですよ』

「なぜそう言いきれる」

『スネイプ先生が作った薬ですから』



真意を探るように、スネイプはユイの目を覗きこんだ。

2つの黒い視線が薬の上で交わる。



「人狼だと気づかれたと分かったルーピンが、君に危害を加えるとは考えられんのか?」

『心配してくださるのは嬉しいですが、ルーピン先生はそんな人じゃないから大丈夫ですよ』

「うわべに騙されるな。やつは化け物だ」

『ルーピン先生は化け物じゃありません!』



見上げるユイの瞳はまっすぐで、黒真珠のように輝きを秘めている。

それに対して、見下ろす自分の瞳はどうだろうか。

――濁った闇の色をしているに違いない。




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