アズカバンの囚人

□11.不協和音
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「ユイって、変わってるってよく言われない?」

『言われます。不本意ながら』

「褒め言葉だと思うから、喜んでいいと思うよ」

『そうですかぁ?』



年齢を感じさせない外見も言動も、人とは違う価値観も、全部ユイの魅力の1つだ。

きっと今まで彼女を「変わっている」と言った人達も、親しみや愛おしさを込めて言ったに違いない。

まだ子どもだというのに、ユイには人を安心させるような暖かさがあり、彼らもついそれに甘えてしまいたくなったことだろう。



「ところでさっき、リーマスって言ったよね?」

『ぅえ!?す、すみません!』

「教師を腹黒呼ばわりしただけでも聞き捨てなら無いのに、呼び捨てとはね……」

『あの、その…つ、つい勢いで……申し訳ありませんでした!』

「減点……いや、罰則かな」

『ええええっぇぇぇぇえ!!』

「僕が人狼だって分かった理由と、セブルスなんかを好きな理由を羊皮紙2巻き書いてきて」

『ちょっ、“なんか”って言わないでくださいよ!』

「つっかかるとこそこなんだ?」



やっぱり変わってるよとリーマスは笑った。


(普通は内容とか量とかを突っ込むと思うんだけどな……でもさ、盗み聞きするようなやつは、“なんか”で十分だと思わない?)


リーマスが横目で入り口を確認すると、そこには既に人影はなかった。

さっき一瞬チラついた黒は、間違いなく彼だろう。

こそこそついてくるなら、最初から一緒に来ればいいのに。

食事のときもうるさいくらいにスリザリンの席に目を走らせていたし……。


(気にかける気持ちは分からなくはないけどね)


「じゃあ、スネイプ先生を、ね」

『え?本気で罰則ですか?』

「ううん。冗談で罰則」

『どっち!?』



リーマスは笑いながら、本気だといえば本当にセブルスを好きな理由を延々と書き連ねてきそうなユイを廊下まで見送る。

書かせるわけがないじゃないか。

とてもじゃないけど、それを全部読む気になんてなれない。



「セブルスをうらやましく思う日が来るとはね……」



見えなくなった小さな後姿を想い、リーマスがぽつりと呟く。

満月を数日後に控えた日の数時間の会話で、こんなに心が軽くなるとは思わなかった。

明るくて優しくて強くて、なおかつ何事に対しても一生懸命で……セブルスが気にかけている理由がよくわかった。



「罰則……脱狼薬を甘くするのに成功するまでここに通うよう言えばよかったかな」



返し忘れたゴブレットを片手に、リーマスは眉を下げ口の端を上げた。






12.大型犬のしつけ方
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