アズカバンの囚人
□11.不協和音
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『狼に変身した姿を見たわけでもないのに“怖くない”って言うのは薄っぺらいなぐさめにしか聞こえないかもしれませんが……今目の前にしているルーピン先生は腹黒いけど優しい1人の人間なので、怖いわけないじゃないですか。それに――』
ユイは机に置かれたゴブレットを手に取り再びリーマスに渡し、飲むよう促した。
『薬を飲めば、満月の日にも自我を保てるんですよね?だったら、やっぱり怖くないです。なんだったら、満月の夜にずっと一緒にいてもいいですよ』
「そういうことは軽々しく言うもんじゃない」
『だって、薬があれば人を襲わないでしょ?』
魔法薬ってすごいですよね、と語り始めるユイの目は輝いていた。
どんなに口では気にしないと言っていても、うわべだけだったり、哀れみの目で見られたりするのが普通なのに、目の前の少女はただひたすら魔法薬の可能性について熱く語っている。
『――で、リーマスはおとなしい狼の姿になるだけで――私は薬を作れるし――怖いものなし、私最強っ……という事ですっ!』
屈託の無い笑顔と傍にいるという言葉から、かつて満月が訪れるたびに動物に変身して夜をともにしてくれていた親友達の姿が脳裏に浮かぶ。
ユイからは、彼らと同じような優しさや、懐かしさすら感じられた。
思わず目頭が熱くなり、薬を飲むのを口実に上を向いた。
目の端に映る黒い影を押し出すようにして薬を一気に飲み干したリーマスは、ゴブレットをユイに手渡すと、そのままユイを腕の中に収めた。
『え、ちょっと、ルーピン先生!?』
「ん?」
『は、はなっ……離してくださいっ』
「ごめん。嬉しかったんだ」
硬直するユイからゆっくり手を離すとユイはいっきに後ずさって距離をとった。
(そんなにあからさまに逃げられるとちょっと傷つくよ?)
「怖くないんじゃなかったの?」
『いや、それたぶん――じゃなくて絶対、意味が……違います』
うつむいて真っ赤になった顔を手でパタパタ仰ぎながら消えそうな声でぶつぶつ言っている。
(そうか、日本人は照れ屋なのか)
ハグのたびにこんなになってるのでは大変だろうなと普段の生活の様子を想像したリーマスの口からクスッと息が漏れた。
『わ、笑わないでくださいよ!』
「笑ってないよ。ユイは面白いね」
『馬鹿にしてる方ですかっ』
「方って……ぷぷっ……もう片方は何?」
『えっと……ほ、ほほえましい的な?』
「はははっ」