アズカバンの囚人

□11.不協和音
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『――というわけで、体調不良でスネイプ先生に授業を頼むならちゃんと引継ぎしないとダメですからねっ』



約束通りスネイプの遣いで脱狼薬を手に現れたユイが人差し指を立てて嬉しそうに話すのを聞きながら、リーマスは困惑していた。



「セブルスが、人狼の授業を?」



なみなみと注がれたゴブレットを受け取ったリーマスの手は小さく震えた。

薬が小刻みに揺れ、波紋を作っているのに気づき、ユイに悟られないようにゆっくりとゴブレットを机に置いた。

平常心を保つよう自分に言いきかせ、リーマスはユイに笑顔を向ける。

もっとも、ちゃんと笑えているかどうかは定かではないが。



『ええ。でもやめてくださいってお願いしてきたので大丈夫です!』

「そっか。でもどうしてお願いなんかしたの?」



どうか、その理由がまだ習う予定が無いところだからであってほしい。

先日の不安が再びリーマスを襲う。



『ルーピン先生が困るじゃないですか』

「それは、つまり、私が……」

『すみません。実は以前から知ってました』

「っなんで!」



机を叩いた拍子にゴブレットから薬が飛び散る。

自分を落ち着かせようと両手を握るが、どんなに力を入れても薬がつくる波紋は消えなかった。



『スネイプ先生がばらしたわけじゃないですよ』

「そうじゃなくて!」

『誰にも言ってません』

「違う、そんなことじゃない、私が聞きたいのは……」



この際もう“だれが”“どうやって”など関係ない。

どういう経緯にしろ、今更問い詰めたところで知ってしまったことを無かったことにはできない。



「どうして……」



言葉が続かない。

言葉にしてしまえば、自分が化け物であることを再認識させられそうで怖かった。


なぜ僕を恐れない。

なんで平気で1人で近づいてこれるんだ。

そのうえ授業の心配までしてくれるなんて……。


どうして?

僕は、人狼なのに――。



『ルーピン先生はルーピン先生ですから、人狼でも怖いとは思いません』



1番聞きたかったことを汲み取ったかのようにユイは優しく笑った。



『私は、先生の授業も――先生も好きですよ』
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