アズカバンの囚人
□09.脱狼薬
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(ナイスタイミングです先生!)
スネイプはハリーとユイの姿を見つけると、はたと足を止め、暗い目を細めた。
手にしたゴブレットからかすかに煙が上がっている。
「ああ、セブルス。どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?」
リーマスが笑顔で言った。
スネイプは嬉しそうに目を輝かせているユイから目を離さずに煙を上げているゴブレットを置き、その後ハリーとリーマスに交互に目を走らせた。
「ちょうど今2人に水魔を見せていたところだ」
「それは結構。ルーピン、すぐ飲みたまえ」
「はい、はい。そうします」
スネイプはゴブレットをじっと見つめているユイをチラチラと見ながら「1鍋分煎じた」と言った。
ユイはスネイプが嫌いなルーピンに薬を煎じてあげていることに感心し嬉しく思っていたが、スネイプには薬が何かを探っているように映った。
「もっと必要とあらば――」
「たぶん、明日また少し飲まないと。セブルス、ありがとう」
「礼には及ばん……明日はモチヅキにでも届けさせよう」
「『え?』」
スネイプはニコリともせず、ユイを見据えたまま、あとずさりして部屋を出て行った。
ユイは一度だけだが脱狼薬を作ったことがある。
気づくかどうか試しているのか、それとも気づかせたいのか――。
ユイはスネイプの考えを測りかねた。
(なんで私に届けさせるの?)
ハリーとユイの目がゴブレットに注がれていることに気づき、リーマスは微笑んだ。
「スネイプ先生が私のためにわざわざ薬を調合してくださった。私はどうも昔から薬を煎じるのが苦手でね。これはとくに複雑な薬なんだ」
リーマスはゴブレットを取り上げて匂いをかいだ。
「砂糖を入れると効き目がなくなるのは残念だ」
そう言ってリーマスは一口のみ、身震いした。
ハリーは別の意味で身震いしそうだった。
(そんなあからさまに脅えなくても……)
ユイはスネイプ教授が毒薬を盛るわけないでしょと突っ込みたくなるが、ハリーは本気でリーマスを心配していた。
「どうして――?」
「このごろどうも調子がおかしくてね。この薬しか効かないんだ。スネイプ先生と同じ職場で仕事ができるのは本当にラッキーだ。これを調合できる魔法使いは少ない」
「でも――そうだ、ユイが作ってあげなよ!」
ハリーはリーマスを毒殺から救う手立てを見つけたとばかりに顔を輝かせてユイのほうを振り返った。
「たいていの魔法薬なら作れるよね?きっとこの薬も――」
「ハリー、先程も言ったように、これはとても複雑な薬なんだ。残念だけど、優秀だからといって学生が作れるようなものじゃないんだ」
リーマスの顔にはわずかだが焦りの色が見える。
ハリーがいる手前、下手なことは言えないと判断したユイは、この場はとぼけることにした。
『そうよハリー。私を買いかぶりすぎだわ。スネイプ先生が作れるものを私が全部作れたら、今頃私は魔法薬学の教授をやってるわ!』
ハリーはそうだったらどんなにいいだろうかという顔をした。
「ユイは教授になりたいのかい?」
『はい!』
「通りで勉強熱心なわけだ。一緒に働くのが楽しみだよ」
『あ、でも、私が魔法薬学の教授になったらスネイプ先生が闇の魔術に対する防衛術を教える予定なので……』
「ははっ、それは困るね。私が失業してしまう」
「今だって!」
危機感のない2人の会話にハリーは思わず大声をあげる。
ハリーはユイの顔色をうかがいながら続けた。
「――スネイプ先生は闇の魔術に対する防衛術の座を手に入れるためなら何でもするだろうって、そう言う人がいます」
『ハリー、言いすぎよ。スネイプ先生はそんな人じゃないわ。今だって仲が悪いルーピン先生のために薬を持ってきてくれてるじゃない!』
「仲悪い!?」
じゃあ余計危ないじゃないかという言葉をハリーは辛うじて飲み込んだ。
リーマスはゴブレットを飲み干し、顔をしかめた。
「ひどい味だ――さあ、わたしは仕事を続けることにしよう。あとで宴会で会おう」
リーマスは空になったゴブレットを机に置き、ユイとハリーを外へ促した。