アズカバンの囚人
□09.脱狼薬
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「お座り。紅茶はどうかな?――私もちょうど飲もうと思っていたところだが」
『あ、私やりますよ』
「ありがとうユイ。いつもすまないね」
「いつも?」
リーマスからヤカンを受け取ったユイがお湯を沸かすのを見ながら、ハリーは首をかしげた。
「ユイはよく本を借りに来るんだけど、その都度お礼だと言って紅茶を入れてくれるんだよ。しかも、お菓子つきでね」
リーマスは「毎回何を持ってきてくれるのか楽しみなんだ」と子どものような笑顔をしながら紅茶の缶をユイに手渡した。
それからふと思いついたかのようにハリーに「すまないが……」と話しだした。
「すまないが、私のところにはティー・バッグしかないんだ――しかしお茶の葉はうんざりだろう」
「先生はどうしてそれをご存知なんですか?」
「マクゴナガル先生が教えてくださった――気にしてはいないだろうね」
「いいえ」
ユイはハリーとリーマスに紅茶を入れたマグカップと、大広間からくすねてきたスコーンを渡す。
リーマスは何のためらいもなくチョコチップが乗ったほうを手に取った。
このままボガートの会話になり、ユイが転んだ話をつっこまれると面倒だなと思い、ユイはカップを片手に2人からはなれ、水魔の入った水槽に近づき覗き込んだ。
水魔は緑色の歯をむき出し、それから隅の水草の茂みに潜り込んだ。
「心配事があるのかい、ハリー」
「いいえ。……はい、あります」
ハリーはユイがいることで少しためらいを見せたが、ユイが水魔の水槽をつついて遊んでいるのを見ると、リーマスに向き直った。
「先生、ボガートと戦った日、どうして僕のところに走ってきたんですか?」
「ああ。言わなくても分かると思っていたが……そうだね、ボガートが君に立ち向かったら、ヴォルデモート卿の姿になるだろうと思った」
ユイは緑色の顔とにらめっこをしながら2人の会話に耳を傾けた。
「最初は確かにヴォルデモートを思い浮かべました。でも、僕――僕はディメンターのことを思い出したんです」
「そうか……感心したよ。それは、君が最も恐れているのが――恐怖そのもの――だということなんだ。ハリー、とても賢明なことだよ」
(なんか難しいこと言ってるなぁ。“恐怖を恐れる”って、“頭痛が痛い”みたいに聞こえるわね)
「それじゃ、私が君にはボガートと戦う能力がないと思った、そんなふうに考えていたのかい?」
「あの……はい」
「ユイは、そんなことないって思ったからあのとき私にぶつかってきたのかい?」
(げっ)
リーマスはユイを見て、やんわりと「ハリーを止めようとする私を止めようとしたよね?」と言った。
ハリーは何のことだかさっぱりわからないという顔をしている。
『え、ええ、まあ……ハリーならヴォルデモートだろうがディメンターだろうが打ち勝ってくれると思ってましたから』
「ユイ転んだんじゃないの?そういえばあの時、僕にはボガートが一瞬消えたように見えたんですが――」
『うん。そう。押されて転んだのよ』
「え?どっち?……そういえばあの時、ボガートが消えたってハーマイオニーにも聞かれた――」
ドアをノックする音で、話が中断された。
「どうぞ」
リーマスが言うとドアが開いて、スネイプが入ってきた。