アズカバンの囚人
□08.まね妖怪
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「ス……せ……い」
「ん?」
「スネイプ先生」
小さい声でネビルが答えると、笑いが起こった。
「よく分かるよ。みんな怖いよね」と言いながら笑うリーマスの口元は、どう見てもニヤついてるようにしか見えない。
(本性現したわね腹黒リーマス!)
ユイはこれは絶対にリーマスがわざとやってるんだと思っていた。
ネビルがスネイプを怖がっているのを知っていて、こっけいなものに変えようとたくらんでいるのだ。
『はい!私やってみたいです!』
「はやる気持ちは分かるけど、まずはネビルのを見よう」
(見たくないから手を挙げてるんですっ!!)
先程まで自分がボガートの前に立つわけにはいけないと考えていたことも忘れ、ユイは猛アピールしたが、結局洋箪笥の前にはネビルが立った。
リーマスに促されるまま、祖母の服装を思い浮かべるネビルをユイは睨みつけた。
「先生……ユイも怖いです……」
「ユイ、そうネビルにプレッシャーを与えないであげてくれるかな」
『嫌です呪います(むしろ私を怖がるのよネビル!)』
ユイが言うと、ネビルは小さな悲鳴をあげて後ずさりした。
「ユイ、やっていいよ……」
「ネビル、私は君に頼んだんだよ」
リーマスは笑顔でネビルの肩を叩き、それから少し真面目な顔をしてユイを見た。
「授業に積極的なのはいいことだけど、他の生徒を脅すのは感心しないな。それ以上言うようなら、減点せざるをえなくなるよ?」
(減点ごときが怖くて物語は壊せないわ!)
ここでネビルが女装スネイプを出せば、スネイプのリーマスに対する心証は確実に悪くなる。
今後のことを考えると、どう考えても望ましくない。
(自分に返ってくるのよ!?)
だが、これ以上言ってもリーマスは折れそうにもなかった。
あまり騒ぎすぎるのも今後の行動に差しつかえるため、ここは目を瞑るしかない。
ユイは諦めてリーマスをボガートの前に立たせない作戦のほうに集中することにした。
(こんなことなら、ボガートやめましょうって最初にリーマスに言っておくんだったわ)
「大丈夫、落ち着いてもう一度考えるんだ。半分スネイプ先生で半分ユイのボガートが出てきたら、呪文を唱えるまでもなくこっけいだろう?――さあネビル、杖を構えて」
ネビルをリラックスさせるためにリーマスはもう一笑い起こさせ、洋箪笥のカギを開けた。
カチャっという音とともにゆっくりと扉が開き、スネイプが出てくる。
あんなかっこいいスネイプ教授が怖いなんて信じられない……と、脅えるネビルを見ているユイに、今まで退屈そうに壁に寄りかかっていたドラコが話しかけた。
「スネイプ先生の授業以外で手をあげるなんてめずらしいな――何してるんだ?」
ネビルが杖をあげるのを見て、ユイは反射的に後ろを向いた。
『いや……、見たくないというかなんというか……できれば見ないであげて欲しいなーなんて……』
「は?何言って――っ!?」
会話の途中でドラコは言葉を失い眉間に皺をよせた。
洋箪笥の中から登場したスネイプが、ネビルが「リディクラス」と叫んだと同時に姿を変えたのだ。
てっぺんにハゲタカのついた帽子をかぶり、緑のドレスを着て、赤いハンドバックを手に下げた姿だ。
クラスのほぼ全員が大爆笑する。
「あいつ……わざとか?」
腹を抱えて笑うリーマスに、ドラコが嫌悪感を示す。
『私はわざとだと思うわ』
「スリザリンの寮監を笑いものにするとはね――だからさっきあんなに?」
『失敗しちゃったけどね。まあ仕方がないわ』
いつまでも引きずってはいられない。
ユイはドラコから離れて前のほうへ進んだ。