アズカバンの囚人
□07.縮み薬
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「君達、ご友人のハグリッドを近ごろ見かけたかい?」
「君の知ったこっちゃない」
ドラコに低い声で聞かれ、ロンは目も合わさずにぶっきらぼうに答えた。
「気の毒に、先生でいられるのも、もう長いことじゃあないだろうな」
悲しむふりが見え見えの口調だ。
「父上は僕の怪我のことを快くおもっていらっしゃらないし――」
「いい気になるなよ、マルフォイ。じゃないとほんとうに怪我させてやる」
「――父上は学校の理事会に訴えた。それに、魔法省にも。父上は力があるんだ。わかってるよねぇ。それに、こんなに長引く傷だし――」
ドラコはわざと大きなため息をついてみせた。
「僕の腕、果たして元通りになるんだろうか?」
「そうか、それで君はそんなふりをしているのか」
ハリーは怒りで手が震え、手元が狂って、死んだイモムシの頭を切り落としてしまった。
「ハグリッドを辞めさせようとして!」
「そうだねぇ」
マルフォイは声を落とし、ヒソヒソ囁いた。
「ポッター、それもあるけど。でも、ほかにもいろいろといいことがあってね……。ユイ!」
『ちょっと待ってー……ネビル、あとはかき混ぜて煮込むだけでオッケーよ。火加減に注意してね』
「ユイ、僕のイモムシを輪切りにしろ」
ドラコはついに自分からユイを呼び出すようになった。
ハリーが「輪切りにしろ」だなんて命令されたらついでに指を切ってやりたい気持ちになるのに、ユイはいつもと変わらない調子で笑顔でネビルに火の調節の仕方を説明している。
「ロングボトムなんてほっとけよ。早く僕のをやれ」
『はいはい。ねえドラコ、なんで命令口調なわけ?』
「僕の腕が治るまでは僕の言うことを聞くんだろ?」
『なんかいろいろ解釈が間違えてる気がするわ……まあ、これくらいいいけど』
(いいわけないよ)
ハリーとロンの2人は、テーブルを行ったりきたりするユイを見ながら、何もしようとしないドラコのことをなるべく視界に入れないよう努力した。
数個先の鍋で、ネビルが水薬を作るのに成功したと狂喜乱舞している。
見間違いでなければ、うっすらと涙が浮かんでいるようだ。
(すごいな、ネビル成功したんだ)
1回の成功で泣けてしまうほど、普段の魔法薬の授業中はネビルはいつも支離滅裂だった。
ネビルにとって、これが最悪の学科だ。
恐怖のスネイプの前では、普段の何倍もへまをやった。
ユイが細かく指示を出していなければ、きっとネビルのことだ、明るい黄緑色になるはずだった水薬はオレンジ色や紫色になっていたに違いない。
(くくっ、スネイプの顔ったら!)
スネイプは面白くなさそうな顔をしてネビルの水薬を見ていた。
いつもならここでネチネチとネビルに嫌味を言い始めるんだが、どうやら今日は何も言うことができないようだ。
(そりゃそうだよね、ユイが手伝ったんだもの)
ネビルを手伝ったのがハーマイオニーだったら黙ってはいなかっただろう。
スリザリンの中では飛びぬけてユイがスネイプに怒られているが、それでもユイがスネイプのお気に入りなのは誰が見ても明らかだった。