アズカバンの囚人
□05.占い学
2ページ/4ページ
トレローニーはその後もオーバーリアクションをしながら生徒達のテーブルを回った。
「そこのあなた、おばあさまは元気?」
突然話しかけられたネビルは不安にかられたようだった。
「元気だと思います」
「あたくしがあなたの立場だったら、そんなに自信ありげな言い方はできませんことよ」
ネビルがごくりと唾をのんだ。
『あたくしがあなたの立場だったら、そんなに生徒を不安がらせる言い方はできませんことよ』
ぼそっと呟くと、近くにいたパンジーとミリセントが驚きの表情で振り返った。
ユイは無意味に教授につっかかったりすることはけしてなかった。
魔法薬学の初日に『大人気ない』と独り言を言って目をつけられたことを除けば、だが。
「というよりさっきから下向いて何やってるのよ」
『ん……内職』
パンジーとミリセントが“未来の霧を晴らす”とカップを交互ににらめっこする中、ユイは図書館から借りてきた本を机の下に置いて読んでいた。
「本当にどうしちゃったの?」
『占いに興味がないだけよ』
(未来ならすでに知っているわけだし)
自分に関する本物の予言なら聞きたいが、授業では聞くことはないだろう。
ユイは去年の防衛術同様、この教授から学ぶことは少ないだろうと見切っていた。
「それ私のカップなんだから真面目にやってよね」
『大丈夫よ。パンジー、あなたの恋はうまくいくって出てるわ』
本から目を離さずに言うと、それでもパンジーは満足したようだった。
「じゃあ次私ね」とミリセントがユイのカップを回し始める。
「えーと、これは十字架みたいね。こっちは太陽かしら?」
どこかで聞いたことのあるようなセリフにユイは顔をあげた。
最前列で同じようなやりとりをハリーとロンがしている。
紅茶の滓なんて、どれも同じようなものなのだろう。
『“試練と苦難”が待ち受けるけど、それが“大いなる幸福”?』
「――驚いた。ちゃんと教科書の中身は覚えてるのね」
『まあ……ある程度』
(試練と苦難に大いなる幸福か……あながち間違ってないけど)
『試練を乗り越えた先に幸福があるならいいんだけどね』
「え?」
『ううん、なんでもない』
一瞬しんみりしてしまった空気を打開すべく、ユイは本を閉じてカップを受け取り覗き込んだ。
『そうじゃなきゃただのドMじゃない』
ミリセントとパンジーは噴き出した。