アズカバンの囚人

□05.占い学
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トレローニーはその後もオーバーリアクションをしながら生徒達のテーブルを回った。



「そこのあなた、おばあさまは元気?」



突然話しかけられたネビルは不安にかられたようだった。



「元気だと思います」

「あたくしがあなたの立場だったら、そんなに自信ありげな言い方はできませんことよ」



ネビルがごくりと唾をのんだ。



『あたくしがあなたの立場だったら、そんなに生徒を不安がらせる言い方はできませんことよ』



ぼそっと呟くと、近くにいたパンジーとミリセントが驚きの表情で振り返った。

ユイは無意味に教授につっかかったりすることはけしてなかった。

魔法薬学の初日に『大人気ない』と独り言を言って目をつけられたことを除けば、だが。



「というよりさっきから下向いて何やってるのよ」

『ん……内職』



パンジーとミリセントが“未来の霧を晴らす”とカップを交互ににらめっこする中、ユイは図書館から借りてきた本を机の下に置いて読んでいた。



「本当にどうしちゃったの?」

『占いに興味がないだけよ』


(未来ならすでに知っているわけだし)


自分に関する本物の予言なら聞きたいが、授業では聞くことはないだろう。

ユイは去年の防衛術同様、この教授から学ぶことは少ないだろうと見切っていた。



「それ私のカップなんだから真面目にやってよね」

『大丈夫よ。パンジー、あなたの恋はうまくいくって出てるわ』



本から目を離さずに言うと、それでもパンジーは満足したようだった。

「じゃあ次私ね」とミリセントがユイのカップを回し始める。



「えーと、これは十字架みたいね。こっちは太陽かしら?」



どこかで聞いたことのあるようなセリフにユイは顔をあげた。

最前列で同じようなやりとりをハリーとロンがしている。

紅茶の滓なんて、どれも同じようなものなのだろう。



『“試練と苦難”が待ち受けるけど、それが“大いなる幸福”?』

「――驚いた。ちゃんと教科書の中身は覚えてるのね」

『まあ……ある程度』


(試練と苦難に大いなる幸福か……あながち間違ってないけど)


『試練を乗り越えた先に幸福があるならいいんだけどね』

「え?」

『ううん、なんでもない』



一瞬しんみりしてしまった空気を打開すべく、ユイは本を閉じてカップを受け取り覗き込んだ。



『そうじゃなきゃただのドMじゃない』



ミリセントとパンジーは噴き出した。
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