アズカバンの囚人
□04.新任の先生
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「モチヅキ、我輩が先程言ったことを覚えているな?」
『えっと……』
「必要以上にルーピンに近づかない、手首の傷を見せない、余計なことに首を突っ込まない……」
『なんか増えてません?』
「返事は?」
『は、はいっ!』
大広間のドアを開ける前にもう一度念押し――というより脅しを受け、中に入るとちょうどダンブルドアが立ち上がったところだった。
「おめでとう!」
ダンブルドアは生徒達にニッコリと笑いかけた。
蝋燭の光でキラキラ輝くあごひげを撫でながら全体を見回し、ユイが席につくのを確認して、ダンブルドアは話し始めた。
「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。1つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーっとなる前に片付けてしまう方がよかろうの」
ダンブルドアは一度咳払いをし、注目を引いてから続けた。
「ホグワーツ特急での捜査があったから皆も知っての通り、わが校はただいまアズカバンの吸魂鬼――つまりディメンターたちを受け入れておる。魔法省の御用でここに来ておるのじゃ」
汽車でディメンターに出くわした生徒たちは、その時の様子を思い出して喉を鳴らした。
静まり返った大広間にダンブルドアの声が響く。
「ディメンターたちは学校への入り口という入り口を固めておる。あの者達がここにいるかぎり、はっきり言うておくが、だれも許可なしで学校を離れてはならんぞ。ディメンターはいたずらや変装にひっかかるようなシロモノではない――“透明マント”でさえムダじゃ」
ダンブルドアがさらりと言葉を付け加え、ハリーに目配せをする。
その後、ユイの目をじっと見つめた。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、ディメンターには生来できない相談じゃ。それじゃから、一人ひとりに注意しておく。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ」
(無言の圧力が……っ)
ダンブルドアはまた言葉を切り、深刻そのものの顔つきで大広間をぐるっと見渡した。
誰一人身動きもせず、声を出すものもいなかった。
「楽しい話に移ろうかの。今学期から、うれしいことに、新任の先生を2人お迎えすることになった」
生徒達の視線がいっせいに教員席を走る。
リーマスは一張羅を着込んだ先生方の間で、一層みすぼらしく見えた。
「まずルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている“闇の魔術に対する防衛術”の担当をお引き受けくださった」
パラパラとあまり気のない拍手が起こる。
リーマスと同じコンパートメントに居合わせた生徒だけが、大きな拍手をした。
――もちろん、パンジーを除いて。
「スネイプ先生はあの人が教師に適さないってわかっていらっしゃるようだ」
ドラコの言葉にスネイプのほうを見ると、スネイプは2・3回形だけの拍手をして、教職員テーブルの向こう側からリーマスのほうを睨んでいた。
(だから、そんなあからさまに!)
スネイプがリーマスを憎むのは、学生生活をめちゃくちゃにされたことを考えると仕方のないことだとは思う。
いじめたほうはそれほど気にしていなくても、いじめられた側にはってやつだろう。
スネイプの大人気ない性格がそれに拍車をかけている。
(でも、いくら憎いからって人狼のことをばらすのはよくないと思うわ)
なんとかして、教授を説得したかった。
リーマスにはこのままホグワーツで教鞭をとっていてもらいたい。
(“必要以上に関わるな”ってことは、“必要”なら問題ないってことよね)