アズカバンの囚人
□04.新任の先生
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スネイプはその後一言も発することなく地下の研究室へと向かった。
バタンと大きな音を立ててドアが閉まる。
一息おいて、「さて」とスネイプは切り出した。
「汽車の中でディメンターに出くわしたそうだな」
『はい。あ、でも私悪くないですよ!向こうが勝手に乗り込んできたんですからね。それにまさか記憶がない私が気絶するなんて思ってなかったですし――』
「記憶がない?気絶?」
(え?あれ?まさか墓穴掘った!?)
「我輩は“ディメンターが乗り込んできたときに同じコンパートメントに居合わせた”としか聞いていないのだが?」
『うぇ』
「どういうことなのか説明してもらおう」
(じゃあなんで呼び出されたのよ!?)
ディメンターに会った生徒は他にもたくさんいるはずだ。
「言えないのであれば直に心に聞くしかなさそうですな」
『えっ、ちょ、真実薬とか卑怯ですから!てかむやみに生徒に使っちゃダメですって!』
「ならば……」
『開心術も同じです!言いますから杖向けないでください!!』
リーマスの件で最高潮に機嫌が悪いスネイプは、脅しではなく本気でやりかねない目をしている。
記憶がないのも意識を失ったのも両方とも自分でもよく分からないため、事実をそのまま伝えるしかできなかったが、とりあえず言えることはすべて言った。
当然未来の内容は伏せて話したため多少あいまいな部分は出てしまったが、スネイプは杖を降ろしてくれた。
『あの、それで、私が呼ばれた理由は……?』
「ルーピンがディメンターを追い払ったからといって、やつに教えを請おうなどと思うな?」
『え……それだけですか?』
「さよう。よいな?奴に関わるではないぞ」
(さっきの緊張を返して!)
『そりゃ無理ですよ。先生なんですから』
「では必要以上に、だ。――それから、」
スネイプは一呼吸おいてぶっきらぼうに言った。
「手をだせ」
『?』
「さっさとだせ」
スネイプはユイの右手をつかみ袖をまくった。
現れた赤黒い爪痕に眉をひそめる。
『あの』
「黙っていろ」
引き出しから薬を出し塗ってみたり、杖を当ててなにやらぶつぶつ唱えたりしばらくあれこれと試していたが、特に変化は起きなかった。
「これも駄目、これも……ではしかたあるまい」
独り言のように小さく呟いた後、ため息をついたスネイプは、最後に包帯を出しユイの手首にぐるぐるとまきつけた。
『教授?』
「そうやすやすと人に見せていいものではあるまい」
『……ありがとうございます』
忙しい中いろいろ調べてくれたのだろう。
部屋の中には呪いや傷に関する書物が乱雑に置かれていた。
ユイの視線に気づいたスネイプは「勘違いするな。ついでだ」と杖を振って文献や材料の残骸を片付けた。
「ついでにこれもしておけ」
部屋を出がけにおもむろに投げてよこされた黒い物体をキャッチすると、少し幅のあるタオル地のリストバンドだった。
「包帯は包帯で目立つ」
『そこまで神経質にならなくてもいいような気がしますが……』
「モチヅキの意識が足らんのだ。よりによってルシウス・マルフォイなぞに見られおって」
『うぇ。ご存知でしたか』
「我輩に隠せると思うな。……ルーピンに見せてはいないだろうな?」
『もももちろんですよ!教授ってば、さっきからり……ルーピン先生の話になると顔が怖いです!』
リーマスの名前が出るだけで眉間にこれでもかと皺をよせ、口をゆがませる。
怒りを通り越して、憎しみの表情だ。
(これだけ嫌っているのに脱狼薬は作ってあげるのよね……)