アズカバンの囚人

□04.新任の先生
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『リー……じゃなかった、ルーピン先生すみません』


(あぶな!リーマスって呼ぶところだったわ)


彼はホグワーツの教師であった期間が短いため、ユイの中では彼は“ルーピン先生”ではなく“リーマス”であり、気を抜くとうっかりファーストネームでと呼んでしまいそうだった。



『ドラコが失礼な態度を……彼はツンデレなんです。許してあげてください』

「はは、いいよ慣れてるから。それより君は変わってるね」



リーマスはさっきドラコがリーマスにしたように、ユイのことを頭からつま先まで眺めた。



「見た目はハリーより幼く見えるのに、ずいぶんと大人びた思考をしているようだ」

『……それって褒め言葉ですか?』

「もちろん。皮肉に聞こえたのなら申し訳ない。君は、えっと、確か……」

『ユイ・モチヅキです』

「そう、ユイだ。さっきハリー達が呼んでいたのにうっかり忘れてしまった」



パンジーもドラコについていったし、ゆっくり話ができそうだとユイは石段を登るリーマスの隣を歩いた。



「気分はもう大丈夫?」

『ええ、先生のおかげです。パトローナスでディメンターを追い払って下さったとか』



今度やりかた教えてくださいとさりげなく付け加えると、大理石の階段を上るリーマスの足が一瞬止まる。

不思議そうな顔を向けられ、ユイはしまったと思った。



「確かに私はディメンターを追い払ったが、パトローナスだとは彼らにも話していないよ」

『え?あ、ああ、そうなんですか?でもディメンターを追い払う呪文はエクスペク…パクローマm……ナムしかないなと思って』



取り繕うために焦って早口で言うと、得体の知れない呪文になってしまった。

セリフどころか舌まで若干噛んだ。



「エクスペクト・パトローナム、ね」



リーマスはやんわりと言ったが、笑いをこらえているのか頬が引きつり肩が震えている。



「思考だけではなく知識も大人並みのようだね。魔法は得意なのかい?」

『いえ。エク……守護霊の呪文の様に長いものや複雑なものは苦手です』

「練習を積み重ねればできるようになるよ」

『がんばります』

「倒れたら元も子もないからほどほどにね。ああ、迎えが来たようだよ」



最後の1段を登りきると、スネイプが大広間のほうからツカツカと歩いてくるのが見えた。


(む、迎え?)


嫌な予感がして立ち止まったユイに向かってスネイプは一直線に歩いてきて、リーマスの目の前で止まった。

奥のほうでハリーとハーマイオニーがマクゴナガルに呼ばれている。



「これはこれはルーピン教授。その体で本気でこの職に就くおつもりだとは思いませんでしたぞ」

「やあセブルス。私も正直いまだに信じられないよ。これからよろしく」

「我輩は貴様とよろしくするつもりはない」



スネイプの嫌味をさらっと流すリーマスに比べて、スネイプの大人気ないこと。

普段の倍以上の不機嫌オーラを出すスネイプを見て、生徒達の流れは自然と3人を避けるように蛇行した。



「Ms.モチヅキ。――話がある。我輩について来い」

『えっ』

「ユイはスリザリンだったんだね」

「わざわざふくろう便をよこしておいて白々しい」


(うわああ、やっぱり!)


リーマスがふくろう便を出しに行くのはわかっていたのに、口止めするのを忘れていた。

わがまま言ってみんなと一緒に登校させてもらった都合上、ホグワーツ特急内で何かあったことがスネイプにバレてはいけないというのに。


(新学期始まって早々説教ですか……)


「話してたらスリザリンって感じがしなかったから、もしかしたら間違いかも……ってね」

「貴様の見解には興味はないルーピン、さっさと行け」

『スネイプ教授、そこまで邪険に扱わなくても……』

「ルーピンの味方をするつもりか」

『いえ、そういうわけではなくですね』

「いいんだユイ、彼は昔からこうだからね。じゃあまた後で」

「……チッ」


(そんなあからさまに舌打ちしなくても!)


最後まで微笑を崩さなかったリーマスと対照的にスネイプは終始不快感を全面に押し出していた。

生徒達がいる前であんな態度をとったらますます誤解されてしまうではないか。


(悪いのはいじめていたリーマスのほうなのに、ホント損な性格よね……)




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