秘密の部屋
□13.試合後の出来事
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『とにかく、これに懲りたら試合中にハリーにちょっかい出すのを止めることね』
そろそろ戻ろっかと言ってユイは立ち上がり、ドラコに手を差し出した。
その手をつかんで立ち上がったドラコは、ふと夏休みのことを思い出して、そのままユイの手を引いて体の中に収めた。
「ありがとう」
『おおぅ!?』
「ふん、感謝の仕方はこれでいいんだろ?」
思いがけないドラコの行動にユイは一瞬驚いて変な声を上げたが、以前自分が言ったことが伝わっていたと思うと嬉しくて、『うんうん、よくできましたっ』とユイよりも少し背の高いドラコの頭に手を載せた。
「ユイ……母上みたいだな」
自分で言っておきながら、ドラコはおかしくなって声を出さずに笑った。
自分より体の小さな同級生に母親の姿を重ねるなど、きっと箒から落ちたときに頭を打ったにちがいない。
『――ッ』
「どうした?」
息をのむユイを不審に思ってドラコが体を離すと、耳まで赤くしたユイが下を向いていた。
照れているのかと思いドラコが顔をのぞき込むと、ユイはわなわなと震えだした。
『――んな、こんな大きな子どもがいるほど年取ってないわよっ!』
勢いよくグーでドラコを殴り飛ばす音と大声が展望台に響く。
ドラコは殴られた頬を押さえることも忘れて目を丸くして顔を真っ赤にして怒鳴るユイを見上げた。
こんなに感情を顕にして怒ったユイは初めて見た。
ドラコが“穢れた血”と言ったときも、ロックハートがちょっかいを出したときも、声を張り上げて怒鳴ることなどなかったのに――。
『失礼ねっ!』
「本気で言ったわけじゃない」
『は?そんなの当たり前でしょ?』
「……悪かったよ」
『ドラコ……やめて、謝られると逆にショックだわ』
「じゃあ僕にどうしろっていうんだ」
『や、うん、そうね。ごめん……ちょっと頭冷やすわ……ドラコは先に戻ってて』
怒っていたかと思えば突然肩を落として落ち込むユイを前に、ドラコは自分が殴られたということも忘れて立ち尽くした。
何か触れてはいけないことに触れてしまったようだ。
そういえば父上が女性に年齢を聞くのは失礼だと昔言っていた気がするなとドラコはぼんやり考えた。
(父上、12歳の女の子にも適用されるものなのですか……?)
とりあえずそっとしておいたほうがよさそうだと判断し、ドラコは1人で寮に戻ることに決めた。
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