秘密の部屋

□12.狂ったブラッジャー
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「もう一方の手で杖を喉元に突きつけ――それから残った力を振り絞って非常に複雑な“異形戻しの術”をかけた――」



ロックハートが決めポーズをして呪文を唱えると、クラス中の女子の目がハートになった。


(あれのどこがかっこいいんだろ……)


最前列を陣取るパンジーとミリセントの2人も、うっとりとロックハートを見つめている。

いつもはユイも2人と一緒に座るのだが、この授業だけはバラバラに座っている。

ユイはロックハートの目の前の最前列など絶対に行きたくはなかったし、パンジーたちはクラッブとゴイルが邪魔で前がよく見えない最後列など絶対にごめんだと言う。



「敵は哀れなうめき声をあげ――ハリー、さあうめいて――」



今更だが、どうしてダンブルドアはこの人を選んだろうかと思わずにはいられない。

いくら他に候補がいないからって、こんな、人の偉業を自分のものとするペテン師を教壇に立たせるなんて……。


(……ちょっと待って)


「毛が抜け落ち――牙は縮み――そいつはヒトの姿にもどった」



ユイの全身を電流が駆け抜けた。


(狼人間を、異形戻しの術で、人間に戻した、ですって!?)


「簡単だが効果的だ――こうして、その村も、満月のたびに狼男に襲われる恐怖から救われ、私を永久に英雄と称えることになったわけです」



演技を追えた満足げなロックハートがハリーを席に戻すと同時に就業のベルが鳴る。

ロックハートが宿題を出し、生徒たちが教室から出て行き始めても、ユイは目を見開いて固まったまま動けないでいた。



「どうしたの?」



ロンが心配そうにユイに声をかけた。

ユイは我に返り、何か言いたそうにしていたロンを置いて一目散に図書室へ向かった。


(どうして今まで気づかなかったんだろう)


ロックハートはペテン師であり、彼の偉業はすべて他人のものだ。

何ひとつ自分でやり遂げていない。

だが、言い換えればロックハートが本で語る偉業は、“他の誰か”が実際に成し得たことなのだ。


(人狼が、人間に戻る方法があるんだ――!)



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