秘密の部屋
□08.幽かな声
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『ごめ…、さい――』
搾り出された声はかすれていて、本人ですら聞こえないほど小さかった。
スネイプの腕の中で、ユイは込み上げてくる嗚咽を必死に堪えていた。
この状況にスネイプが困惑しているのは容易に想像が出来る。
勝手に行動して、勝手に部屋に入ってきて、勝手に泣き始めた自分をだまって受け入れてくれているスネイプに、ありがたさと同時に申し訳なさが込み上げてくる。
ごめんなさい――。
スネイプはおそらくユイが何に対して謝っているのか分からないだろう。
自分自身、なんでこんなにもつらいのか始めはよくわかっていなかった。
“穢れた血”と言うのを止められなかったこと?
「何をしている」と言われ、舌打ちをされたこと?
それとも――?
どれも間違ってはいなかったが、正解でもない。
作戦がうまくいかなかったことは今までも何度だってあるし、今回は誰も死んだりケガをしたりはしていない。
ハーマイオニーは心に傷を負っただろうが、ハグリッドが立ち直らせてくれる。
舌打ちなど毎日されているからいちいち気にしてられないし、冷たく突き放すような言葉や態度の裏に、優しさがあることは知っている。
ユイがここまでショックを受けているのは、もっと別の理由だった。
(私が止めたかったのは、ドラコの言葉じゃなくて――)
ドラコに言わせたくないという気持ちと、ハーマイオニーに聞かせたくないという気持ちも確かにあった。
だが、ユイが必死になっていたのは、2人の為ではない。
本当に止めたかったのは、今ユイの目の前にいる人物が、愛する人に向けて言ってしまった言葉。
涙が止まらないのは、ドラコとハーマイオニーにスネイプとリリーを重ね合わせていた自分に気づいてしまったからだった。
しかもそれに気づいたのは、ドラコがハーマイオニーに「穢れた血め」と言ってからだ。