アズカバンの囚人

□3-27.5 日常という名の奇跡
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スネイプは躊躇した。

狼人間を追って行ったユイを追うべきか、それともシリウスを追って行ったハリーを追うべきか悩んでいた。

そしてすぐに、考えている暇はないことを知らされる。



「あれを見て!」



ハーマイオニーが指差す先には、ディメンターの大群が漂っていた。

あちこちから集まってきて、一直線に湖のほうへ向かっている。



「チッ……」



スネイプにとってはシリウス・ブラックがどうなろうと知ったことではなかったが、あれだけの量のディメンターがやってきて、ハリーが無事ですむ保障はない。

歩けないウィーズリーを担架に乗せ、スネイプが湖に駆けつけると、血を流して倒れるブラックと瓶をかかえてあせるハリーの姿があった。



「ハリー!」

「ハーマイオニー助けて!どの薬を使えばいいの?どれを使えばシリウスは助かるの!?」

「それどころじゃないよハリー!今すぐ逃げなきゃ!」



ロンがぶるぶると震える腕を上空に向ける。

何十と言う数のディメンターが狙いを定めるようにグルグルと旋回をし、湖が凍り始めた。

自分のパトローナスの姿を思い浮かべ、どうしたもんかと考えたスネイプは、ハリーが手にしている瓶の中に“幸運の液体”が混ざっていることに気づいた。



「ポッター、そこのフェリックス・フェリシスを飲め」

「え?なんです?」

「いいから飲め!」



強制的にスネイプが薬を飲ませると、ハリーは数回瞬きした後、見ている側がイライラするほどの笑顔になった。



「ハリー……?大丈夫?」

「うん!もっちろん!どうしたのハーマイオニー?あ、シリウスおじさんを助けないとね。薬、全部かけちゃえばいいかな?」

「ハリー!その前に逃げなきゃ!」

「大丈夫、僕に任せて!」

「任せてって……ハリー無理よ、1人であんなにたくさん!」

「やれポッター」

「エクスペクト・パトローナム!!」



スネイプの合図でハリーが力強く杖を振る。

幸運の液体のおかげで幸せ120%のハリーが放った銀色の光は、湖面を駆け、あたり一面のディメンターを蹴散らした。



***
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