アズカバンの囚人
□20.スネイプの恨み(後編)
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ハリーが姿の見えない足跡に困惑している頃、天文台の教室から出たユイは、寮へ戻らずフクロウ小屋へ向かっていた。
しかし、西塔へ行く前にユイはリーマスに見つかった。
「何してるんだい?」
『夢遊病で……』
「そう。じゃあ、夢の中でどこで何をしていたの?」
『……えっと、夢なのでよく覚えてないです』
リーマスの口調は穏やかだったが、怒っていることは明らかだった。
スリザリンから5点減点し、すぐに寮に戻るようユイに命じた。
「天文台は立ち入り禁止のはずだろう?」
『え?』
「雪がついてる」
『うそっ、晴れてたのに!』
「……嘘だよ」
ローブの袖や肩を払うしぐさをするユイを見て、リーマスは長い息を吐きながら眉を下げた。
「そんな疲れた体で、目に隈を作ってまで、夜に行かなきゃいけないほど切羽詰った用事があそこにあったのかい?」
『いえ……』
「今1人で行動することがどれだけ危ないことなのか君はわかっているはずだ」
『すみません。すぐ帰ります』
「……待って。送っていくよ」
1人で戻らせるのは危険と判断したのか、それとも見張るつもりなのかわからないが、リーマスはユイについてきた。
リーマスに伴われて階段を降りながら、ユイは、見つかってほっとしている自分がいることに気づいた。
(やだ、何いまさら怖じ気ずいているのよ)
ユイにとって闇陣営につくこと自体はそれほど大きな問題ではない。
ユイがルシウスの要求に応えたことを知ったらスネイプはどう思うだろうか、ということのほうが気がかりだった。
今までのスネイプを見る限り、ユイが闇の魔術に関わることを快く思っていないだろうことは容易に想像がつく。
クィレルに対しては、脅してまでユイに近づこうとするの阻止していた。
ルシウスにしても、2人きりにさせないようドラコの家までついてきたり、手紙の内容を確認したり、直接言わないまでも厳しく監視している。
それはきっとユイを巻き込むまいとするスネイプの優しさだとユイは思っていた。
(自分は1番危険な役目をしているくせに……)
頼ってくれとまでは言えないが、少しくらい力になりたい。
ユイはそう思うたびに、そこまでの信頼関係はないんだ、と痛感しなくてはいけなかった。