アズカバンの囚人

□15.忍びの地図
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一度あがった雨は再び降り出し、12月までパッとしない天気が続いた。

12月になるとようやく雨は止んだが、代わりに世界は白に覆われた。


城の中はクリスマス・ムードで満ち溢れている。

呪文学の教室には妖精のチラチラ瞬くライトが飾り付けられ、大広間には巨大なモミの木が運び込まれる。


みんなが休み中の計画を楽しげに語り合う中、ユイは隙を見つけてはシリウスがいる北の塔へ足を向けた。



「よう。来たなユイ」

『久しぶりシリウス。だいぶ男前になったわね』

「まあな。元がいいからな」



シリウスは初めて会ったときとは見違えるほど人間らしくなっていた。

最近は監視の目が厳しくなり、良くて2日に1回――悪いときは1週間に1回の訪問になったため、けして十分とは言えなかったが、それでもユイが訪れるたびに食料を届けていた。

そのため、ボロボロの骸骨のようだった顔にも血の色が戻り、軽口を叩けるほどにまで回復し、かつての自分を取り戻しつつあった。



『今日はホグズミードで浮かれている生徒が多かったからたくさん持って来れたわ』

「お。さすがユイ、私の好みを分かっているな」

『そりゃ毎回必ずチキンから食べればね』



クリスマスが近いため、豊富に食卓に揃えられたチキン料理を机の上に並べる。

クリスマス休暇になれば毎日持ってこれることを告げると、シリウスは子どものように喜んだ。



『今日もアニメーガスになる練習の続きをしたいんだけど……』

「ん?今日はホグズミードの日じゃなかったのか?」

『ええ。でも私は行かないから大丈夫』

「そりゃダメだ。クリスマス前のホグズミードは行っておくべきだ。私との練習は冬休みに入ってからでも――どうした?」

『ちょっと、困ったことがあるのを思い出したのよ』

「困ったこと?」

『ハリーの手に、忍びの地図が渡るの』



地図を広げれば、ここにいてはいけないシリウス・ブラックの名前が表示されてしまう。

ピーター・ぺティグリューのように。

見つかったら大騒ぎだ。

そもそも、今まで気づかれなかったのがおかしいくらいだ。

フレッドとジョージに見られていたらと考えるとぞっとする。



「水晶玉に浮かんだのか?」



シリウスは、ユイが占い学が得意だと勝手に思い込んでいた。



「占いなんて外れることのほうが多いだろ。今まで大丈夫だったんだから、大丈夫なんじゃないのか?」

『そんな簡単に言わないでよ……』

「それではこうしよう。私はこれからしばらく森に隠れる。その隙にユイはハリーから地図をもらうか、この場所が書かれた部分をちぎる。そうしたら――」

『それこそ無理難題よ!』



ハリーが地図を渡すとは思えない。

地図がハリーの手を離れるのは、スネイプに没収され、リーマスの手に渡るときだ。

そうなったらもうどうすることもできない。



「うまくいかなかったら、私がずっと森にいればいいだけの話だ」

『そんなのダメ!』

「私のことなら心配するな。今まで匿ってもらえただけでも感謝してもしきれない……君は私の命の恩人だ」



シリウスは、落胆するユイの肩を叩いた。



『シリウス……力になれなくてごめん』

「どこが。十分助かったさ。――あ、このチキンは全部もらっていくぞ」



シリウスはきれいになった歯を見せて笑い、杖を一振りして机の上のご馳走を小さくひとまとめにした。



『ちょっと待って!その杖どこで手に入れたの!?』

「ああ、見つけたんだ」

『見つけた!?』



得意げな顔をするシリウスの手には白い杖が握られている。

見たことがない杖だ。



「材質が木じゃないから杖としての役割は不十分で威力は弱いが……まあ、ないよりはいい」

『使ってるの?』

「一度使えるかどうか試しただけだ。これで2回目――心配すんな。約束は守る」



余計なことには使わないと誓い、シリウスはすばやく犬の姿になると「たまには顔見せに来てくれよな」と言い残し、食料をくわえてユイの脇をすり抜けた。



***
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