アズカバンの囚人

□14.恐怖の敗北
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次の日、気だるい体を引きずり部屋のドアを開けたリーマスは自分の目を疑った。

確か今日は今年に入って初めてのクィディッチの試合が行われる日のはずだ。

荒れ狂う風が雨を地面に叩きつけていようとも、稲妻が空を覆っていようとも、試合が中止になることはない。

観客も同様、天候が悪いからと観戦を控えたりはしない。

学校中がいつものように試合を見に行っているはずだ。


それなのに、教室に1人の生徒が机に伏せている。

上から見下ろしているため顔は見えないが、流れる黒髪はここ数日リーマスの元を訪れていた少女のものに似ていた。



「ユイ……?」



教科書に添えられた腕には見覚えのあるリストバンドもつけられている。

リーマスが階段を降りて近づくと、気配に気づいたユイが顔を上げた。



『ルーピン先生……』

「ユイ?」



顔を見てもなお疑問形になったのは、憔悴しきった顔をしている少女が、いつも自分に笑顔を向けてくれた人物と同一だとは思えなかったからだ。



『ごめんなさい……』



リーマスはなんのことだろうと一瞬思い、すぐに昨日のことに思い当たった。

教室でのやり取りは、ドアを隔てた自室にまで聞こえていた。

ユイの頼みを、スネイプは無下にしたのだ。



「昨日のことなら気にしなくていいよ。ユイが僕のことを思ってセブルスに進言してくれただけで――」

『違うんです』



ユイはよろよろと立ち上がり、うつろな目をリーマスに向ける。

誰が見ても、普通じゃないことはわかった。



『ルーピン先生のためじゃないんです……』

「何言って――」



ふらつく体を支えようとユイに触れたリーマスはハッとした。



「いつからここにいたんだい!?」

『うん……と……』



ユイのローブは水気を含んで冷え切っている。

反対に、顔は燃えるように熱い。



「どうしてこんな格好でこんな場所に――いやいい、話はあとだ。まずはマダム・ポンフリーのところへ行くよ」

『大丈夫ですよ』

「大丈夫じゃない。頼むから私の言うことを聞いてくれ」



抱き上げて連れていくだけの体力がない今の自分にイラつき、もどかしさを感じながらも、リーマスはユイの手を引いた。
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