アズカバンの囚人
□10.脱獄犯
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ホグズミードから帰ってきた生徒達から大量のお土産を渡されたのはユイにとって幸いだった。
ちょうどいい具合に単独行動する口実ができた。
『先に宴会行ってて』
ドラコやパンジーだけではなく、ミリセントにノット、ザビニ……他にも先輩方が次々とお菓子を持ってきたため、スリザリンの談話室の一角にお菓子の山が出来上がっている。
片付けるのは宴会後でもいいんじゃないかと言うパンジーの背中を押しながら、ユイは戻ってきたときに邪魔になるからと部屋に持っていってから宴会に行くと告げる。
『ここに置いといたら、誰かに取られちゃうかもしれないし!』
「こんなにたくさんあるんだからいいじゃない」
『ダメよ!私に買ってきてくれたものなんだから、ちゃんと私が食べるわッ』
「そう。じゃあがんばって」
手をふりパンジーを見送ると、ユイは両手にお菓子を抱えて部屋に運んだ。
談話室から人がいなくなるまで繰り返すと、残りを魔法で小さくして一気に運び、寮を出たユイは大広間ではなくグリフィンドール塔を目指した。
途中で周囲に人がいないことを注意深く確認する。
(――よし)
ローブを着替えながらユイは透明薬を飲み、深呼吸をして息を整えてから袋から薬を取り出す。
(まずは変声薬と変色剤で……)
小瓶の中の薬を一気に煽ると、ユイの髪の毛は闇の色から光の色へと変化した。
誰かに見られたときのための防衛策だ。
ハロウィーンのパーティー中だとはいえ、誰も残っていないとは言い切れないし、絵画やゴーストのことを考えると普段の姿のままシリウスに近づくわけにはいけない。
小声で呪文を唱えて目も変え、ユイは太った婦人の絵にそっと近づいた。
婦人はまだ健在だ。
(あとはこの薬を床にこぼして…)
太った婦人に気づかれないよう、音を立てないように気をつけて床に小さな薬の水溜りを作る。
シリウスが来たときに透明のままでは説得できないので、透明になる薬の効果時間は5分程度と準備に使うギリギリの時間にした。
だからといって変身した姿で絵画の前に立ち続けるのも無理な話なので、ユイは苦肉の策として縮み薬を選んだ。
(シリウスがどこから入ってくるか分かればよかったんだけどなぁ)
ユイは最後の仕上げに自分に縮み薬をかける。
みるみるうちに小指ほどのサイズになったユイは、額縁で死角になる部分に隠れた。
退化して赤ん坊になるのではないかと心配だったが、事前にふくろうで試したらちゃんと縮むだけで済んだ。
原作でネビルのがおたまじゃくしになったのはきっと微妙に失敗だったのだ。
色も正しくなかったし、あれは縮んだとは言えないし。
(シリウス早く来ないかなぁ)
できれば怪しまれないように宴会中に大広間へ行きたい。
そんなユイの願いが通じたのか、それから5分としないうちにシリウス・ブラックは現れた。
犬の姿で登ってきたシリウスが最後の1段を上がるのと同時に人の姿になるのを見て、ユイは先程こぼしておいた元に戻る薬のところへ走った。
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