アズカバンの囚人
□09.脱狼薬
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その日、ホグワーツ全体がいつもよりも浮き足立っていた。
表立って騒ぐことの少ないスリザリンでも、そわそわしている生徒が多く見受けられる。
グリフィンドールなんかは前日の夜から盛り上がっていることだろう。
今日はハロウィーンであり、今年度に入って初のホグズミードの日でもある。
ユイは気合を入れておしゃれをするパンジーの横で、ベッドに寝転がり本を読んでいた。
「ねえ、本当に行かないの?」
『うん。何回も言ってる通り、許可証無いのよ』
ここ数日で同じような会話を何十回としている気がする。
いろんな人に一緒に行こうよと誘われては断り……の繰り返しだ。
「ユイの保護者ってダンブルドアでしょ?今からでもサインしてくれるんじゃないの?」
『いいの。ホグズミードに行くより勉強してたいし……』
これはユイの本心ではなかった。
本当は行きたい。
ゾンゴとかハニーデュークスとか、行きたくて行きたくて仕方がない。
(でも、行ってる場合じゃないのよね)
特に今日はシリウスが現れる日だ。
許可証は、わざと書いてもらわなかった。
誘惑に負けてしまわないように。
「まさか一日中ずっと勉強してるつもりじゃないでしょうね?今日はハロウィーンよ!?」
朝食に行ってからもパンジーの小言は続く。
パンジーなりに心配しているのだ。
「もともとガリ勉だとは思ってたけど、今年に入ってからのあなたおかしいわよ。夜も遅くまで勉強してるみたいだし、まるで何かに追われてるみたい」
『そんなことないって……(鋭いなあ)』
追われている――確かに、“時間”に追われている。
やりたいこととできることの差を埋めるのには、圧倒的に時間が足りない
ふと、教員席にすわるスネイプと目が合った。
(スネイプ先生、私頑張りますよっ)
ユイは笑顔で手を振ったが、スネイプにはいつも通り目をそらされ、代わりにリーマスが笑顔で手を振り替えしてくれた。
(リーマス優しいっ!)
「……そういう理由?」
『へ?』
「質問に行ってる理由よ。毎日毎日とっかえひっかえ!」
『ちょ、誤解を生む表現やめてよ!』
「なんの話だ?」
パンジーが騒ぎ立てるため、ドラコまでよってきてしまった。
この2人が揃うと、たいていユイへの説教が始まる。
一人ひとりと話しているときは断然ユイの方が優位なのだが、2人揃うとどうも“手のかかる子どもと両親”という図式が成り立ちがちだ。
「ユイが勉強してるのは不純な動機だって話よ」
『違うって』
「おまえ、真面目にやれよ。学校を何だと思ってるんだ」
『だから違うって!』
「じゃあなんで毎日違う先生の所に行ってるの?」
『そりゃそれぞれの科目で質問したいことがあるからよ。それに、ちゃんとスネイプ先生のところには毎日行ってるわ!』
「自慢にも言い訳にもなってないわよ」
「図書館にも毎日いるだろ。ちゃんと食べてるのか?」
『今食べてるでしょ!』
「私がいないとデザートばっかり食べてるじゃない」
「お前は子どもか。そのうち体調崩すぞ」
『大丈夫だって!』
(私の方が年上だっての!)
「それにたまに食事に来ないときもあるじゃない」
『ちゃんと部屋でも食べられるように食事をくすねていってるから大丈夫よ』
「そういう問題じゃない!」
注目が集まりだしたため、ユイは仲良くはもった2人の背を押して大広間を後にする。
玄関ホールにはすでに人であふれかえっていた。
「気が向いたらお土産買ってきてあげるわ」
『ありがとう。気をつけてね』
仲良くするのよとパンジーとドラコを一緒に送り出し、ユイは人気のない廊下を通り北の塔へ向かった。
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