アズカバンの囚人
□08.まね妖怪
1ページ/4ページ
闇の魔術に対する防衛術最初の授業――
今年の大きな目標の1つ、リーマスの辞任を防ごう大作戦の始まりだ。
がたがたと音を立てる洋箪笥の前に生徒をずらりと立たせ、リーマスは「おもしろいだろう?」と切り出した。
全員が洋箪笥に釘づけになる中、ユイは1人だけリーマスをじっと見ていた。
リーマスは教室の中心に集まった生徒達のまわりをゆっくりと歩きながら、ボガートに関する質問を次々と投げかける。
「この箪笥の中にいるのが何者か、わかる人はいるかな?」
「マネ妖怪ボガート」
「その通りだよディーン。――ではボガートはどんな姿をしているかな?」
「誰も知りません」
ハーマイオニーが答えた。
さっきまでいなかったはずのハーマイオニーの登場に「いつ来たの?」と隣のロンが驚いている。
(ハーマイオニーは賢いから下手なことをすると逆に感づかれる可能性あるから気をつけなきゃ)
「形態模写妖怪です。相手が一番怖いと思うものに姿を変えます。だから――」
「とても怖い……そうだね。幸い、ボガートを退散させる簡単な呪文がある」
ハーマイオニーはこの授業と、スネイプの課題によってリーマスが人狼だと気づく。
彼女に気づかれたからといって、大きな問題になるわけではない(実際に原作では気づいてからもシリウス登場まで黙っていた)が、それでも気づかれないに越したことはない。
(要はリーマスがボガートの前に来るのを防げばいいのよね)
早く出せとでも言わんばかりに揺れを増す洋箪笥の前に立ち、リーマスは「練習しよう」と微笑んだ。
「いいかい。僕の後に続けて言うんだよ――ああ、杖はいらないよ――リディクラス!」
「リディクラス!」
全員で呪文の発音を繰り返している間も、ユイは授業そっちのけでどうするのが1番確実か、頭の中で繰り返しシミュレーションしていた。
(ハリーにボガートの前に立たせないようにするのが一番楽なんだけど……)
原作の流れで行くならロンが変身させたクモがハリーの目の前に転がるのを防げばいいだけなのだが、どうやら今回は映画版のようだ。
順番にやったら必ずハリーまで当たってしまう。
(ああもうっ、なんでどっちかに統一してくれないのよ!)
ユイは誰に向けて言ったらいいのかわからない文句を心の中で叫んだ。
(危険だけど、リーマスを止める方向でいくしかないわね)
ハリーがボガートの前に出るのを止められないのであれば、リーマスの邪魔をするしかない。
リーマスには怪しまれるかもしれないが、下手にハリーを止めようとしてボガートの前に出て、血みどろのスネイプになられでもしたらそれこそ一大事だ。
(そのためにはハリーの後ろに並んでいればいいから……)
「あー、ネビル。前に出て――君が1番怖いものは?」
リーマスがネビルを指名したのを聞いて、ユイはハッとした。
(しまった。こっちのことすっかり忘れてたわ!)