アズカバンの囚人
□05.占い学
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北塔のてっぺんで占い学の授業は行われた。
ほの暗い明かりが部屋を満たし、窓という窓のカーテンは閉めきられている。
カーテンを開ければ少し離れたところにユイが目覚めた塔が見えるだろう。
教室の床は階段状になっており、小さな丸テーブルがざっと20卓以上、所狭しと並べられている。
それぞれのテーブルの周りには繻子張りの肘掛け椅子やふかふかした小さな丸イスが置かれていた。
「なんだここは。これでも教室か?」
顔をしかめるドラコに周りのメンバーが同意する。
どこの教室にもある黒板のようなものは見当たらない。
代わりに丸い壁面いっぱいに棚があり、埃をかぶった羽や蝋燭の燃えさし、ボロボロのトランプなどが雑然と詰め込まれている。
窓際にはホグワーツの生徒全員に配れそうなほどの数の紅茶カップが絶妙なバランスで高く積み上げられていた。
「ようこそ子供たち」
ユイが後方の円卓にパンジーとミリセントと一緒に座ると、霧の中から聞こえるようなか細い声が突然発せられた。
「このクラスでは“占い学”の気高い術を学んで頂きます」
トレローニーは大きな黒縁のメガネをかけて、折れそうな首から鎖やビーズ玉を何本もぶら下げていた。
“昆虫”という表現がぴったりあっている出で立ちだ。
「みなさんに“眼力”が備わっているかどうか、見極めましょう」
勢いのあまり机にぶつかり笑いが起こる。
一部の生徒は既に「この人大丈夫か?」と思い始めていた。
自己紹介が始まるとその人数は徐々に増えた。
「さあ、あたくしと一緒に未来を垣間見てみましょう!」
両手をあげ、誰もいない方向に向かって嬉々として話す頃には、半分近くの生徒が唖然としていた。
「今学期はお茶の葉の模様を読む術を学びます。それでは皆様、ティーカップを交換なさって」
「……ユイ、聞いてる?」
『ああ、うん。はい』
おいしくない紅茶を飲みながら、教授の紅茶を飲みに行きたいなと考えていたユイをミリセントがつついた。
「ユイが授業を真面目に受けないって珍しいね」
『だってあれじゃあ……ねえ?』
ミリセントに自分のカップを渡し、パンジーからカップを受け取りながらユイはトレローニーを見る。
「まずは心を広げてみるのです。この俗世のかなたを!」
トレローニーが教室の端を大げさな身振りで指差し、生徒達の顔が一斉に動く。
「ばかみたい」と言うハーマイオニー達のテーブルを除き、みんなぽかんとした表情で何もない虚空を眺めた。