アズカバンの囚人
□04.新任の先生
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汽車はホグズミード駅で停車し、2年生以上はそこからハグリッドの誘導にしたがって馬車に乗り換えた。
馬車は壮大な鋳鉄の門をゆるゆると走り抜けた。
門の両脇に石柱があり、そのてっぺんに羽を生やしたいのししの像が立っている。
頭巾をかぶった、そびえ立つようなディメンターがここにも2人、門の両脇を警護している。
「私とっても怖かったわ」
パンジーはドラコの腕に絡み付いて、ディメンターとの一件を事細かに説明した。
ユイの後にいたのだからよく見てないはずなのに、パンジーの舌はよくまわり、ハリーが恐怖のあまり痙攣を起こし倒れたのだと嬉々として語った。
「フン、ポッターのやつ、英雄だなんだと言われているが何一つできないんじゃないか」
『パンジーが大げさに話してるだけよ』
「あんたは気絶していて見てないじゃない」
「ディメンターの影響受けるほど繊細だったなんて意外だな」
『なによそれ失礼ね』
「これに懲りたらポッター達に近づかないことだな」
『ハリーが悪いわけじゃないわ』
(呪文が長すぎるのが悪いのよ)
休暇中のホグワーツで守護霊の呪文の練習もしたが、うまくいかなかった。
幸せな記憶どうこう以前に、言ってる途中でかんでしまいなかなか一発で“エクスペクト・パトローナム”と言えない。
(発音と言うよりもはや滑舌の問題のような……)
問題山積なことにため息をつきながら窓の外の真っ黒な空を見上げる。
星どころか月も見えないほど厚い雲に覆われた空は、それだけで気分を重くした。
*
城に向かう長い上り坂で馬車はさらに速度を上げていき、ついにひと揺れして馬車が止まる。
ドラコは馬車を降りるとすぐにハリーの元へ向かおうとした。
ユイがローブの端をつかむとドラコは顔をしかめたが、すぐに口の端をあげた。
「気絶したんだって?」
ユイに言うように、だが、確実にハリーに聞こえるように大きな声を上げ、一部だけわざと強調する。
「“ポッター”たちのコンパートメントにいたときに“気絶なんかしたのかい?”」
『ドラコ』
「なんだよ。僕はポッター達じゃなくてユイに言ってるんだ」
『うそつけっ』
(その話はさっき馬車の中でしたじゃない!)
ドラコはユイを無視し、続いてパンジーに話しかけた。
「あの怖ーいディメンダーで、君も縮み上がったのかい?」
体こそパンジーに向いているが、ドラコの目線は確実にロンを捕らえている。
パンジーもドラコの意図を汲み取ったのか、大きな声で返答した。
「ええ。でもウィーズリーのほうがよっぽど恐怖してたと思うわ!それに、ポッターってばひきつけ起こしてたのよ!」
『ちょっと、いいかげんに――』
「どうしたんだい?」
次の馬車がつき、リーマスが降りてきた。
ドラコは横柄な目つきでルーピン先生をジロジロ見る。
その目でローブの継ぎ接ぎや、ボロボロのカバンを眺め回した。
「いいえ、何も――えーと――“先生”」
ドラコの声にはかすかに皮肉が込められていた。
クラッブとゴイルに向かってにんまり笑い、2人を引き連れて城への石段を登った。