アズカバンの囚人
□03.吸魂鬼
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ナルシッサは3日後に帰ってきた。
詳しくは語らなかったが、ブラック家に関わりがある人達で集まったらしい。
シリウスのことだろうか。
ルシウスとナルシッサのどちらが伝えたのか知らないが、しばらくしてドラコはシリウスがハリーの両親を殺害したのだという話を得意気にユイに話してきた。
『見たわけでもないのに決め付けるのはよくない』とたしなめると、ドラコは機嫌を損ね、それ以上シリウスの話をしなかった。
それから1週間が経っても、ルシウスとスネイプは相変わらず忙しそうで、朝と夜しか家にいなかった。
ユイはルシウスに借りた本ばかり読んでいた。
ナルシッサは暇をもてあましユイを着飾って遊びたがり、ドラコとユイがチェスの勝負をするときは決まってユイを応援した。
「どっちが本当の子どもかわからないな」
ユイの髪を結いながら耳元でアドバイスをするナルシッサを見てドラコは口を尖らせた。
『あらドラコやきもち?』
「ち、違う!2対1なんて卑怯だって言いたいだけだ」
「あら褒め言葉じゃない。ユイ、e-5のコマをとっておかないとあと2手でチェックされるわよ」
『わわ、あぶない!ありがとうございます』
「母上!」
クスクスと笑うナルシッサにドラコが食って掛かる。
悔しそうにするドラコを見てナルシッサは「ドラコなら2対1でも勝てるでしょう?」と微笑んだ。
誰がどう見てもやきもちを焼く必要がないくらいナルシッサはドラコを溺愛している。
ドラコが別の手でチェックメイトをすると、「さすがね」と手を叩いて喜んだ。
「78勝だな」
『もうカウントしなくていいわよ……』
「もう1戦やるか?」
『ううん、夢中になっちゃうと他のことできなくなっちゃうから』
貴重な夏休みもあと少し。
あっという間に夏休みが終わりに近づいていることにユイはあせっていた。
ルシウスの蔵書は闇の魔術に関するものが多く、学校で読めないようなものもたくさんある。
まだまだ読みたい本があるのに、残り1週間では到底読みきれない。
『新しい科目の予習もしなくちゃなのに……』
「そういえばあの“怪物本”はなんだ?僕らをかみ殺す気か!」
『背表紙を撫でればいいのよ?』
「え?」
さっそく予習してくると席を立つユイに続いてドラコも「そんなこと知ってたさ」と言いながら席を立ち、1人で開くのが怖いのか「一緒に予習する」とユイの横に本を持ってきた。
仲良く並んで本を広げる2人を見て、ナルシッサは「兄弟みたいね」と嬉しそうに笑った。
「僕はこんな面倒な妹いらないぞ」
『え、ドラコが弟でしょ?』
「はあ?どう見たってちんちくりんのお前が妹だろ!」
(ちんちくりんって……!!)
ユイはドラコの言葉に噴出しそうになるのを必死にこらえた。
『私は“見た目は子ども、頭脳は大人”なのよ!だいたい、見た目でしか人を判断できないようなお子ちゃまには言われたくないわ』
「子ども扱いするな!だいたい去年は“そんなに年取ってない!”って怒ったくせに、こんなときだけ大人ぶるなよ」
『それはそれ、これはこれ、よ!……っふふ』
「なんで笑うんだ!」
『いや、平和だなあと思って。こういうの、家族団欒みたいでいいね』
「……お前、頭大丈夫か?」
刻々とその時は近づいているのに、平和なひとときにつかっていると、このまま何事も起こらないのではないか……という錯覚に陥る。
(少しでも長く、こんな平和な時間が続くといいのに……)
『よっし、夏休み中に全部終わらせるわよ!』
「無理だろ」
鼻で笑うドラコに『やってみなきゃわからないでしょ』と言い、ユイはものすごい速さでページを読み進めた。
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