アズカバンの囚人

□01.魔法使いの弟子
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ユイにとって1年で最も忙しい、そして最も充実する夏休みがやってきた。

学校がある間は休み時間や夕食後の時間を友人達と過ごすことも多いため、1日を全て勉強に費やすということはなかったが、夏休みになれば消灯時間もなく1日を自由に使うことができる。

それにイギリスの夏は日が長い。

朝日が昇るころに起きだしハグリッドのところで弓をひき、朝食後に地下牢教室へ直行し夕食まで魔法薬の調合、夕食後は課題と1日の復習……と、1日でかなり多くのことをこなすことができる。

特に弓の練習の時間を取れることが嬉しい。

学校が始まってしまうと頻繁に練習をすることができないため、どうしても腕が鈍ってしまう。

こういう機会にでも勘を取り戻しておかないとと足しげく通うユイにハグリッドは首をかしげた。



「おまえさんは魔女、しかもハーマイオニーと肩を並べるほどの実力の持ち主だろ?なんで弓の練習なんかしちょるんだ?」

『いざというとき杖がなくても戦えるように……かな。ホントはね、弓で魔法を使いたいのよ』


(正攻法だと勝てない可能性高いしね)


ハリー・ポッターの世界とはかけ離れてしまうかもしれないが、自分だからこそできる戦い方もあるはずだとユイは考えていた。

少しでも相手の意表をつける戦闘方法は身につけておきたい。



「弓で魔法?どういう意味だ?」

『ファイアーアロー!みたいな?』

「んん??」

『なんでもない、忘れて』

「まあ、俺にはよくわからんが、ケガだけはするなよ。俺の授業が受けられなくなっては困るだろう」



ハグリッドは自分が先生になるということがよほど嬉しいらしく、顔を合わせるたびに同じ話をした。



『そうね、ハグリッドの授業楽しみだわ』



自分の世界に入りすぎてしまったことを反省し、場所を貸してくれるハグリッドにお礼を言うと、ユイは気を取り直して姿勢を正した。


戦闘力をつける以上に、朝食後のスパルタ指導に向けて、精神統一をし集中力を養うのにはもってこいだ。

朝もやの中で弓を射る音が心地よく響き、1日の始まりを告げた。



***



『ふあー、疲れたー』



難易度の高い調合を同時に進める作業は大変だったが、ひとつひとつやれることが増えていると実感できたため苦痛には感じない。



『スネイプ先生、失礼します』



毎日2時過ぎに、ユイは休憩がてら調合が済んだ薬品をスネイプに見せに行った。

この時間はスネイプの休憩時間でもあるらしく、ゆっくりと紅茶を飲みながら話ができる。



「モチヅキ、課題は順調か?」

『はい。もうほとんど終わりです。このまま順調に行けば、お約束した日の3日前には全て終わらせられそうです』

「そうか。よくやった」

『あ、ありがとうございます!』



ここ最近、スネイプが妙に優しい。

1年目は小娘扱いし、2年目は妙な丁寧口調で遠ざけるような態度をとっていたが、ユイが選択科目について相談に行ったあたりから良くも悪くも贔屓されている気がする。

ドラコと同程度の扱いを受けるに留まるが、それでもユイの中では大きな進歩だ。

自然とテンションが上がる。



『8月が楽しみですね!』

「そんなにマルフォイに会えるのが楽しみか?」

『先生、もしかして嫉妬ですか?』



心配しなくても私はスネイプ教授一途ですよと冗談半分におどけて言うと「違う」と見せていた課題の束で頭をはたかれる。



「あまり隙を見せるでないぞ」

『え?』

「ルシウス・マルフォイだ」

『……スネイプ教授がそうおっしゃるなら』


(闇陣営だから……?)


なんのことだかわからなかったが、形だけでもとうなずくユイをスネイプは満足そうに眺め課題を返した。



「レポートはよくできている。残り5日、せいぜい失敗せんよう気をつけるんですな」



***
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