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□腑抜けの恋【番外編】
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海外出張で確かな手応えを感じ帰国すると、お気に入りのバーがあるホテルに向かった。

いい仕事をしたら美味しいお酒が飲みたくなる。って言うとオジサンみたいだけど、それも大人の楽しみ方だと私は思っている。

ホテルのシングルの部屋をとると、数時間の仮眠の後シャワーを浴びた。

手際よく化粧をして、お気に入りのワンピースを着るとプライベート用の携帯をバッグに入れ、地下にあるバーへと向かった。

仕事とプライベートをきれいに分けるのが私のやり方なので、プライベートには仕事を入れないようにしている。

バーに入ると既に数人の客がお酒を楽しんでいた。だけどカウンターにはまだ誰もいない。

カウンターの奥のスツールに座り、いつものマティーニを頼む。マティーニが出される間に携帯の電源を入れた。

(ん?…夏輝から?珍しいわね)

夏輝は、日本どころか世界で有名になりつつあるロックバンド『JADE』のギタリスト『折原夏輝』だ。私と夏輝は身体だけの関係という割り切った付き合いをしている。

でも最近はご無沙汰になっていたから、夏輝からの連絡に微かな驚きを隠せなかった。

よく確認すると着信があまり日を置かずに3件とメールが1件あった。

メールを開くと、連絡が取れなかったから仕方なくメールで知らせている、と前振りの後に今までの関係を終わらせたいと簡潔な文章とごめんとだけ書いてあった。

(何これ?!理由もなしなの?)

確かに私と夏輝は身体だけの気軽な関係だ。それに連絡が取れなかったからメールを送ったのも解る。でも理由くらい聞かせてくれてもいいでしょ?

携帯の時計を見ると12時に少し足りない位だ。今なら繋がるかもと思って夏輝の番号を呼び出し発信する。

ワンコール目にマティーニが出され、バーテンに目でお礼をしながら耳元に聞こえるコール音に神経を集中する。

何故かその時に忘れていたはずの過去を思い出してしまった。

私には結婚まで考えていた彼氏がいた。でもその人は…。

そこまで思い出した時にコール音が切れ、眠そうな夏輝の声が聞こえた。
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