神堂 春

□月下美人
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タクシーから降りるとN.Yの夜空に、月が浮かんでいるのが見えた。

星が見えないのに月を見ることができるのは東京と同じだ、と思いながら部屋へといそぐ。莉沙の待つ部屋へ。


部屋に入りリビングへ行く。電気は点いていたが莉沙の姿はない。

それもそのはずだ。仕事が長引いて、今は真夜中の1時を過ぎている。

寝室へ行くと薄暗い中に、人が寝ているのが分かるシルエットが浮かんでいる。

ベッドの側に立って寝ている莉沙を見下ろす。

(まるで…「眠れる森の美女」だな)

フッと笑うと顔を近づけキスをする。莉沙の唇は柔らかく温かい。

「んっ…春…」

ハッとして顔をあげ、莉沙の顔を見ると目は閉じたままだ。どうやら寝言だったらしい。

「…夢で俺と逢ってるのか…」

そう思うと嬉しさに笑みがこぼれる。

不意に明るくなり窓の方へ目をやると、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。思わず窓の方へと歩く。

光の正体は月だった。どうやら雲が晴れたおかげで輝きが増したらしい。

窓際で煌々と輝く月をぼんやりと見上げる。

暗闇を照らす月。夜に月があるだけで少しだけ、明るい気持ちになる。それはまるで莉沙のようだ。

莉沙が傍にいてくれるだけで心強い気持ちになる。莉沙の笑顔で満ち足り、俺を幸せにしてくれる。


「…春?」
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