青春応援歌〜オルタナティブエンズ〜

□11球目
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「ねえ、これからまた少しだけボクに付き合ってくれないかな?」

ケーキも食べ終わり、もうそろそろカフェを出ようとしたところで士郎くんが言う。

『ん?あたしはいいけど次はどこに?』

「河川敷のグラウンド。花ちゃんに選んでもらったスパイク、履き心地試したくて!!」

そう言って士郎くんは嬉しそうに笑った。






会計を終えカフェを出ると、グラウンドに向かい歩き出す。

士郎くんは監督に一旦、連絡を入れるからとあたしから離れ通路の脇に寄った、

…その時だった。


ドンッと何かに肩がぶつかる。

「痛ってえー!!」

見れば俗に言うチャラ男らしき人たち数名。


「オイ!!気を付けろよ!!…ってあれ?すげーカワイイじゃん!!キミ、今一人!?!?」



うわあ…出たよこういうの。

てか、なにこの切り替わり様。

チャラ男のガッつき様にたじろいでいると、


「これから俺達と遊びに行こうよ〜」


ガッと腕を捕まれる。


『え、ちょっ…!!』


いくらあたしでも男の力は強くて振りほどくことが出来ない。


いきなりだったのでビックリして力がなかなか入らず、それでも頑張って振りほどこうと抵抗していた時、



「ねえ、お兄さんたち。彼女に何してんの?」


士郎くんがニコニコしてチャラ男たちの前に現れる。

…顔は笑ってるけど目が全く笑ってない。





「チッ。なんだよ男連れかよ!!」


「花ちゃん、行こ。」

そう言って士郎くんはあたしの手をぎゅっと握り、その場から腕を引くように離れる。



暫く歩いたところで、

「花ちゃん、大丈夫だった?」

心配そうにあたしの顔を覗く士郎くん。

『ホントにありがとう、士郎くん。少し怖かったけどお陰で助かったっ。』

お礼を言うと、

「花ちゃん、カワイイんだから気を付けないとだよ。」

真剣な表情をして言うから、また赤面してしまう。


そう言えば…

ふと、自分の手に視線を下ろす。


『あ…手…。』


先程の一件から士郎くんの温かい手はあたしの手をぎゅっと握ったまま。


すると、彼は


「一応デートだし、このままこういうの、ダメかな…?」

士郎くんは少し照れたように言う。


そこであたしは気付く。


…これってやっぱりデートだったのねーっ!!


あたしも顔を真っ赤にさせながら、無言で顔を横に振り、嫌じゃないよ、という意思を伝える。

彼は、優しく微笑むと


「じゃあ、暫くこのままで。」


と、言って、あたしの手を包み込んだまま河川敷のグラウンドへとまた歩き出した。















河川敷のに着くと、グラウンドには先客がいた。

小さな男の子二人。
雰囲気がそっくりだから兄弟かな?
仲良さげにボールを蹴って練習している。

士郎くんは早速スパイクに履き替え、兄弟たちに


「少しだけグラウンド半面借りていいかな?」


と、優しく尋ねると、


「「うん!!いーよっ!!」」


元気な返事が返ってきた。


士郎くんはグラウンドのそばにある公共用の用具小屋からサッカーボールを出し、蹴り始める。


フィールドを駆け抜けるスピードは流石。

そのまま力強いシュートを決める。


「このスパイク、すごく良いよ!!」


と、彼ががあたしに向かって言った時、


「「お兄ちゃん、すげえーっ!!俺達にも教えてーっ!!」」



どうやら兄弟二人はさっきの士郎くんのシュートを見ていたらしく、興奮ぎみに士郎くんの元へ駆け寄る。


「うん、いいよ♪」


士郎くんは快く引き受け、兄弟たち二人の相手をする。

すると、兄弟のつり目の子の方が


「お姉ちゃんも一緒にサッカーやろうよっ!!」

と言い、笑顔で手招きする。


しかし、あたしは制服を着てきたのでローファーを履いてきたため、ピッチには入れない。

『ごめんね、お姉ちゃん革靴だからグラウンドに入れないんだ。』

誘ってくれたのはすごく嬉しいけど、さすがにこれでは入れないので困り顔で答える。


「えー!!ちょっとだけなら大丈夫だよ!!」

と、その子が言うと、

「ほら、お姉ちゃん困ってるからワガママ言うなよ。」

兄弟のタレ目のもう一人が諭す。

「ちぇーっ。にいちゃんはいちいち細かいんだよー。」

「しょうがないだろ。」


どうやらタレ目の子が兄でつり目の子が弟らしい。


そして、兄弟たちに士郎くんがサッカーを教えるのを暫く眺める。

それを眺めながら、この兄弟たちも、数年後は士郎くんみたいなサッカープレーヤーになるのかなーなんて思ったりした。

一通り教え終わったところで士郎くんが戻り、あたしの隣に腰を下ろす。


『お疲れ様、士郎くんっ。』

「ただいま、花ちゃんっ。」


兄弟たちは、まだグラウンドで二人で練習している。


「にいちゃんまたミスしたーっ!!」

「そっちが強引にパスするからだろ?」


そんな会話が聞こえる。


「…なんだか懐かしいなあ。」

兄弟を見て、士郎くんが呟く。

何か遠い日を見ているような目をして。


そしてまた、彼は静かに口を開く。


「…ボクにもね、アツヤっていう弟がいるんだ。」

『そうだったの?』

「うん。正確には"いた"んだ。ちょうどあの兄弟の弟みたいな…あんな感じの弟。ガンガン突き進む性格でさ。DFだったボクとFWのアツヤの二人なら、完璧になれるって思ってた。…でも数年前の試合の帰りに雪崩事故で亡くなったんだ。」

『…。』

彼に悲しげな表情が混ざる。

あたしもいきなりの話の展開と重さに、言葉が見つからない。


そのまま士郎くんは話を続ける。


「それでいつの間にか、ボクの中にもうひとつの人格、"アツヤ"が現れるようになった。あの時のボクは完璧に拘りすぎてイナズマキャラバンでの旅の途中でもずっとそれにとらわれてて…気付けばアツヤに頼ってる自分は一体誰なのかさえわからなくなってた。」

しかし、次の瞬間、フッと彼は笑顔を見せる。

「でもね、キャプテンたちがボクを救ってくれたんだ。一人でじゃなくて"皆で完璧になろう"って。そのお陰で、迷いを振り切れて、"アツヤ"じゃない、今の"ボク"があるんだ。」


『…。』

「ごめんね、いきなりこんな話しちゃって。…って花ちゃん!?」


あたしは気付くと無意識のうちに今にも泣きそうな表情で今度はこちらから士郎くんの手をぎゅっと握りしめていた。

『ああっ!!ごめんっ、なんか言葉がなかなか見つからなくて。気付いたらこうしてた…。』

慌てて手を離す。

彼の壮絶な過去との葛藤は話を聞いて想像しただけでも余程辛かったんだろうと感じた。

それの労いと、不器用ながら彼をどんな形でも良いからあたしも受け止めたいと思った結果からの行動がこの行動だったのだろう。


「花ちゃん…ありがとう。」


彼はあたしのその気持ちを理解したかのような眼差しだった。

「困らせちゃってごめんね。彼らを見ていたらつい思い出しちゃって…。でもね、ちゃんとこのこと、近いうちに花ちゃんには話しておこうって思ってたんだ。」

『え…?』

「なんかね、"花ちゃんにはちゃんと全部を言っておけ"ってアツヤが言ってるような気がして。」


ヘヘッと士郎くんは笑う。

…それは一体どういうことなんだろう。

「…きっと近いうちにわかるから。」

そう呟き、士郎くんは立ち上がる。

『…?』

「さ、そろそろ日も暮れてきたし合宿所に戻ろうかっ。」

そう言って目の前に差し出される士郎くんの手。

『うん。』

それに掴まり、起き上がる。


「またねーっ!!お兄ちゃん、お姉ちゃんっ!!」

振り向くと兄弟のタレ目の兄が手を降りながら叫ぶ。

「お兄ちゃん、その可愛いカノジョさん泣かすなよーっ!!」

今度はつり目の弟が大声で叫ぶ。

『…か…カノジョ!?///』

「ボクは本当に花ちゃんがカノジョなら嬉しいけどなーっ。」

『ちょっと…士郎くんっ!!からかわないでって!!///』











こうして色々な出来事があった士郎くんとのデートは幕を閉じました。


今日の出来事で思ったのは、

"これからもありのままの士郎くんを受け止めたい"ってこと。


それから、何となくだけど


"今でも士郎くんの心の中には静かに、アツヤくんが生き続けているんじゃないかな"ってこと。

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