青春応援歌〜オルタナティブエンズ〜
□9球目
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『つ…ついに今日の午後ですか…』
昨日は結局、緊張であまり寝れず、少しだけ瞼が重い。
とりあえず、午前の自主練をしているプレーヤーのお手伝いをできないかと思い、身支度をし、グラウンドに出ようと合宿所の階段を下りる。
階段をもう少し下り終えるところで、見覚えのあるあの後ろ姿が見えた。
その人のせいで昨日寝不足だったんだけどね(笑)
『士郎くん、おはようっ。』
「花ちゃん、おはよう。」
ニコッと微笑みながら挨拶を返してくれる彼を見て、思わず赤面してしまう。
やっぱりイケメンだなあ…なんて思っていると、
「今日の午後、楽しみだねっ♪」
と、嬉しそうに言う。
『…あ、うんっ!!』
気持ちが落ち着かないまま、あたふたして返事をする。
「じゃあ、また練習が終わった後にねっ♪お先にっ。」
そう言って彼はグラウンドに向かって走っていった。
今日の午後は一体どーなるんだろうか…。
男の子と二人っきりで出かけるなんて、よくよく考えてみれば初めてだし…。
そんな不安と期待が入り交じったまま、士郎くんに続き、ゆっくりと程好い天気のグラウンドに出れば、目に飛び込んできたのは、プレーヤーほぼ全員が自主練をしている姿。
やっぱり彼らには"サッカー馬鹿"という言葉が似合ってるな、なんて思い、タオルやドリンクの用意をする。
暫くすると秋ちゃんや春奈ちゃん、冬花ちゃんも来て、一緒に用意をし終えた。
早速、選手たちタオルを配り歩いていると、ふと隅でリフティングをしている選手が目に入った。
軽やかなボールさばきを見せる彼を思わずじいっと見ていると、彼もその視線に気が付いていたのか、
「何、ジロジロ見てんだよ!!」
と、しかめっ面をして言う。
『別に、あんたのことなんか見てませんーっ!!リフティング見てたんですーっ!!』
意地になって言い返す。
彼は不動明王。
イナズマジャパンの一人。
ひねくれた性格で、ラフプレーも目立つけど、その実力は確かな選手。
この合宿で共に過ごしていくうちに、なんだかんだで打ち解けたのか、互いに言い合いをする…というかまず、彼が一方的にあたしにつっかかってくるようになった。
「おらよっ。」
そう言うと彼はいきなりボールをあたしにパスし、
「ほら、お前もやってみろよ。」
と言い、ニヤニヤしてこちらを見てくる。
きっと、彼はあたしが失敗した姿を想像しているんだろう。
『意外とあたしだってやるんだからねっ!!』
そう言って、ボールを蹴りあげると…
『うわっ!!』
力の加減が出来なかったのか、ボールはあらぬ方向…自分の顔面へぶつかり、挙げ句、その拍子にバランスを崩してその場で尻餅をついてしまった。
「アハハハハ!!だっせえー!!」
彼は腹を抱えて思いきり笑っている。
『ちょっと、そんなに笑うことないじゃんっ!!』
顔を恥ずかしさで真っ赤にしながら言う。
「ヘタクソすぎんだよお前っ!!!!」
一通りゲラゲラ笑い終えると、彼は徐にまたボールを宙に軽く蹴りあげ、
「ホラ、こーやるんだよっ。」
余裕気に綺麗に手本を見せる。そして、
「余りにもお前がヘタクソすぎて可哀想だから俺が直々に教えてやるよ。」
と、なんとも上から目線な物言いをする。
『別にもういーもんっ。』
と、膨れっ面で彼に背中を向けて戻ろうとすると、
「あれー、逃げんの?」
と、馬鹿にしたような表情で挑発してくる。
『…やってやろーじゃん。』
挑発だと分かっていても、まんまとそれに乗るあたし。
だって、悔しいし…。
「ホラ、あんまり力いれて蹴るなよ。」
『わかってる…ってあーっ!!』
「あでっ!!」
ボールは高く宙に飛んでいき、弧を描いて近くで練習していた守の頭にヒット。
『ごめん!!守っ!!』
すかさず守に謝ると、
「こんくらい大丈夫だって!!」
と、ニカッと笑う。
…一方、不動くんはまた可笑しそうに笑っている。
不動くんにも守の純粋さを分けて欲しいくらいだよ…。
『今度は頑張るしっ。』
と、軽めに蹴りあげたつもりが…
次は自分で蹴ったのがおでこにヒット。
その後もいろんな箇所にボールを当て自滅し、いろんな人にボールを飛ばし続けた。
「なんか、だんだん笑いを通り越して本当に可哀想になってくるな…」
とうとう不動さん憐れみ始めましたー!!
「おい、よくボールを見ろ。力は最小限でいい。そのままボールをよく見てタイミングを合わせつつ、真上に上げる意識で次へ繋げろ。」
と、アドバイスを貰い、
『…力は最小限、真上に上げる…』
すると、わずかに次へ繋げることができ、2、3回ほど連続することができた。
『あっ!!出来た!!』
「おう。へっぴり腰、そのまま10回くらい繋げてみろよ。」
『ちょっと、へっぴり腰って何よ。』
「見たまんまだ。」
『もーっ!!』
その後もアドバイスのお陰か最高で7回ほど連続でできるようになってきた。
そして。
『ホラっ!!見た!?今10回できたよっ!!!!』
「あ、全然見てなかった。」
『ちょっとー!!』
「冗談だっつーの。やりゃあ結構できんじゃん。」
そう言って彼はあたしの頭を小突く。
『痛っ。』
なんか嬉しくて、でも、素直にお礼を言うのは癪に障るので、どうせなら彼が一番困る方法で言ってやろうと思い、
『ありがとね、明王っ♪』
と笑顔で名前呼びしてやった。
すると、案の定彼は目を見開き、顔を真っ赤にして
「はっ…?///いきなりわけわかんねえっ///」
と明らかに動揺していた。
…なんてわかりやすいんだろう、彼。
ちょっと可笑しくてクスッと笑ってしまう。
その様子を暫く見ていたいけど、そろそろ戻らなければならず、
『じゃ、あたしそろそろ戻るねっ!!』
そう言うと、
「お…おう。」
と、照れているのか先程とはうって変わって大人しくなっていた。
意外と可愛い一面もあるんだなーっ。
こうして、午前の練習は幕を閉じ、いよいよ午後の約束の時間へと時は進むのであった。
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