青春応援歌〜オルタナティブエンズ〜

□6球目
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『…はあ〜っ。』


あのガールズトークを逃れ、気がつけば合宿所の外へ出ていた。

結構うまい具合にはぐらかしてきたんじゃないかと自分で思ったり。

なんか…今日は色々疲れたなあ…。
甘いものが食べたいよ…。





成り行きで出てみた外はほどよく涼しくて、見上げれば夜空には星がたくさん瞬いていた。


見ているうちにもどんどんその星たちの輝きに惹かれ、少しだけ夜空を眺めることにした。

合宿所の玄関口前の段差に腰をかけ、夜空を仰ぐ。



「…あれ、花?」



すぐさま声のした方を見ると、ヒロトが立っていた。


『…あ、ヒロト。』

「花も星を見に来たの?」

そう言いながら彼はあたしのすぐ隣に腰をおろす。

な…なんかとても距離が近い気がするのは、あたしだけでしょうか…?

『まあ、そんなとこかなっ。』

平然を装っているが、さっきのガールズトークのこともあり、ちょっとだけ意識してしまう。

お互いの肩が触れるくらいの距離が余計にそうさせる。


「星を見るのっていいよね。なんだか不思議と落ち着くし。」

月明かりにはっきりとは映されない彼の横顔が、かえって綺麗に見える。

『確かにリラックスできるよね。なにも考えなくていい時間って感じ。それが心地良いっていうか…』

先程の照れのあまりヒロトの顔を直視できないまま答える。

「そうそう!!だからオレ、毎晩外に出て星を見に来るんだ。」

『そうなんだっ。星好きなんだね。シュートも流れ星みたいだったし!!』

「ああ、あれは流星ブレードっていう俺の必殺シュートで…」

ヒロトがそう言いかけた時、


「…花?」

視線をそちらに向けると

『あ…真一!!』

両手にコンビニの袋を掲げて立っている真一がいた。

『なんでアンタがここにいんの!?』

思わず驚く。

「花が日本代表のマネージャーになったってサッカー部から聞いて、わざわざお前に差し入れしようと思って来てやったんだよ。」

真一がそう言うと、


「…あ、確か彼は前に日本代表選考試合を見に来てた…
彼、花の友達?」

真一に気付いたヒロトがあたしに尋ねる。

『うん。あたしの幼馴染みで雷門中のサッカー部員の半田真一って言うの。』


…と、答えると真一もヒロトに気付いたのか

「あ…日本代表メンバーの…」

と呟くと、何故だか少し不機嫌そうな表情になる。

すると、それを見たヒロトはゆっくりと立ち上がり、

「…じゃ、オレはそろそろ先に合宿所に戻るね。せっかくなのに邪魔しちゃ悪いから。」

と言う。

『あ!!そんなに気遣ってくれなくても大丈夫なのに…』

ヒロトに向かって言うと、

「彼もせっかく花に会いに来てくれたんだしさ。じゃあ、また明日ね。おやすみ、花。」

ヒロトはニッコリ微笑んだ後、手をポンッとあたしの頭に乗せ、合宿所の中へと戻っていった。


そして真一の方に顔を向けると、相変わらず顔をムスッとさせている。


『なあにさっきからムスッとしてんのよー?』

「別に。」

アンタはどこぞの女優だよ、と思いながら

『とりあえずこっち来なよ。』

と、さっきまでヒロトが座っていた自分の隣のスペースをペシペシと叩く。

真一は無言であたしの隣に座る。

『さっきから不機嫌そうですね、真一くん。』

「別にそんなことねーよ!!」

『なに次は怒ってんの!!』


相変わらず真一はすぐ怒る。
まあ、長年の付き合いだからなれたモンですけど。

真一は、ハアっと小さく溜め息をつくと、

「…お前ってさ、ホント誰とでも仲良いよな。さっきの日本代表メンバーの基山ヒロトだろ?」

突拍子もなくそんなことを言う。

『…あ、もしかしてさっき、あたしがヒロトと話してたの見てやきもち焼いてんの?』

とクスっと冗談っぽく言うと、

「バッ…バカ!!んなわけねーじゃんっ!!!!」

真一はムキになって顔を真っ赤にする。


その後、暫くしてもう一度小さく溜め息をつく。
今度は少し落ち込んだように。

「…いいよなー。オレも半端じゃなければ…あいつらみたいに強ければ、日本代表にだって……」

夜空を見上げながら言う。

『真一…。』


今まで雷門の試合を見てきた。
今まで陰ながら真一の頑張りを見てきた。
だから、あたしも真一の悔しさはよくわかる。

「オレさ、これと言ってすごいドリブル技もシュートもないし、いくら練習したって全部中途半端でさ、正直あいつらがすげえ羨ましいんだ。」

『…。』

やっぱりそこまで思ってたんだと改めて実感する。

真一が何をやっても中途半端なのは知っている。


でも、あたしは最近の真一はもうそんなんじゃないって思ってる。


『…あたしはさ、真一は中途半端なんかじゃないと思うよ。』

「…え?」

真一があたしを見る。

『だってさ、今までライバルに勝つために努力して雷門の皆と一生懸命特訓してきたでしょ?その努力ってさ、半端なモンじゃないと思う。』

「…。」

『それに、どんなに強い相手にだって、勝ち目がなくたって挑んでいく覚悟も半端な気持ちじゃなかったはず。だから、真一は半端なんかじゃないよ。』

それからあたしは一息ついて笑顔を見せる。

『それからね、特に秀でた部分がない…なんて考えるより、その分自分には色んな方向に可能性があるっていう考え方もあるでしょ?つまり、特に苦手なモノもないってこと!!それってある意味最強じゃん!!』

「…花。」

真一はフッと笑うと

「そうだよな…オレだってまだ日本代表を諦めたワケじゃない。まだこれから練習して日本代表を狙うことだってできるんだよな…!!」

やっと笑顔を見せる。

『しょーがないから、それまで応援してあげるっ!!』

ヘヘへッと笑うと、

「別にお前の応援なんていらねーし!!」

真一らしい可愛くない返事が返ってきた。

「…でも、ほんとサンキューな。花のお陰で今までのモヤモヤが全部ぶっ飛んだ気がする!!」

と言うと、先程両手に持っていた
コンビニの袋を差し出す。

「ほら、差し入れ。お前のことだからどうせ甘いモン食いてーとか言ってるだろうと思って。」

袋を覗くと袋にいっぱいのアポロチョコ。

『わっ!!あたしの大好きなチョコじゃん!!しかもちょうど甘いもの食べたいって思ってたとこ!!何でわかったの!?』

驚いて言うと、彼は




「何年幼馴染みやってると思ってんだよ!!」


と言って笑った。

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