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□何も知らない魔導師
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「…最悪だな、今日は…いや、明日からか…」


…ふー。


俺は今日一日で何回ため息をついた事だろう。
目の前には檻。目の前には看守。…そしてもう一つ、俺の目の前には…。


「…聞いてる?ねー、ねー。」


…‟女‟。


…訳解んねー。起きたらこれだ。…っつか頭イテー。


「…ねー、ねーってば……おおおーいっっ!!


「あーもうっ!うっせーな!!聞こえてるって!!!」


耳元でギャーギャー騒ぐうるさいバカ女…と決めつけちゃならんが、とにかくそいつに向かって、俺は同じくらいの音量で叫んだ。


「なんっなんだよ!つーか何今の現状!?
オイあんた、説明できるんなら説明してみろ!!」


「…んーと、檻の中?」


「見りゃ解るわぁああっ!!」


俺は頭を抱えて、その場にしゃがみこむ。


…あああああ、誰か教えてこの現状を…。


女はと言うと、そこの辺りをきょろきょろと眺めるだけ…。
唯一の現状理解者として、俺の中に残っている看守の方へ行こうにも、
手と足はロープみたいなで繋がっているので身動きできない…のに!
なんで女の方は縄で縛られても動きを封じてたりもしないんだよ!!なんか不公平だろっっ!!


…と、嘆いていても意味がない。体力も無くなる上に腹も減る。
ときたら…誰かが助けに来てくれるまで、待つとするか…。


ふー。


「…あー、またため息ついたー!ダメなんだよー!」


…イラッ


「…だぁあああっ!!うっせー!!」


「ぴゅうっ!」


俺が叫ぶと、女は飛ん…飛ん…


「飛ん…だ…?」


「ん?うん。飛んでるよ?」


「…な、何故飛ぶ!?ってかお前何!!誰!!俺は何なんだぁああっ!!」


「君は私の生徒だ。」


「…なん?」


くるり。俺は看守の方へと視線を向ける。


…と?かなり美人なねーちゃんが一人。腕を組みながら微笑んでいた。
黒いマントに身を包み、眼鏡を掛けた、かなり美人のねーちゃんだ。


「…生徒?なんの?」


俺は、聞いたそのまま聞き返す。


「君は私がいる魔法学校…ヘクサグラムへと編入してきた転校生だ。
そっちのイーズと一緒にな。」


「…は、はぁあああああっ!??」


…って、待て待て待て!俺は一体何なんだ!?


「まぁ、君の記憶も徐々に思い出すだろう。」


「え!?俺記憶ねーの!?」


「気がつかなかったのか?…騒ぎが起こらないなとは思っていたが…。
そうか、もしかして本当に記憶がないんだな?」


俺は必死になってコクコクと首を縦に振る。
そして何故か横ではイーズ…だっけ?が、一緒にって首を縦に振っている。
…何なんだ?こいつは…。


「ねー、ねー。」


「うざってーな!なんだってんだよ!!」


「なんだ、もう仲良くなったのか?」


「仲良くなった覚えはない!」


俺が叫ぶと、イーズはしゅーんと目に涙をためながら、そのまま檻の端に移動して行った。


「…あーあー、イーズがしょげたぞ。」


「知るかよ!っつーかなんで俺があいつに気ィつかわね―と…。」


「…そうか。それもまだか。」


ねーちゃんは、悲しそうに笑った。
…なんなんだよ、俺だけがなんも知らねーって事だよな…。


「…ねーちゃん。俺は何者なんだよ。」


そう言うと、ねーちゃんはにこやかに微笑んだ。
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