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□その前に敵
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「ふ…フロー…ライト?」


「疑問符付けない。…いいわよフローで。」


「あ…や、うん…まぁ…」


「…なによ?どうかした?」


彼は私の視線に気づくと、少し照れくさそうに頬をポリポリとかいた。


「あ、これからどこに行くか…とか?…申し訳ないけど、ちょっとトリーニシティに付き合ってくれない?」


私の提案に、彼は快く頷いた。


「…ところでさぁ、さっきから気になってるんだけど…?」


「な…なにをだ?」


「この距離…私がフローライト=クラワルドだって知ってからのこの距離!
あんたさっきからおかしいでしょ!あ・き・ら・か・に!!」


私の指摘に、あきらか顔色を変える彼。
…さっきジジイの目の前で名を明かしてからのあの態度!!
やたら距離とるわ、さっきから顔赤いわ、…一体何だってのよ!!!!


「お、おかしい事は無いだろう?あんたはあの有名な女魔導師…フローライト=クラワルドだって言うんだ…、俺はずっとあんたの噂を聞いていたし、それに…実は何回か会ってはいたし…。」


ぶつぶつとなにかを呟き、顔をほのかに赤くして俯く。


…え?今なんと?


「…会っていたって…いつ?」


私には覚えないんだけど…と言うか、なんで初恋の乙女みたいに顔真っ赤にしてんのよ。


「…あなた、名前…」


言いかけて、私はすぐそばの草むらに視線を移す。
彼もその隣で息を殺している…そう言えばここ…ナカターシュの森は、魔物が現れたり現れたり現れなかったりって言う噂も立っていたわね…。


「…ゴブリンが七体とトロルが十体…か、楽勝ね。」


「なぜそんな事が解る?」


「…まだ、教えてあげない。」


にっ、私は笑いかけて、草むらに石ころ一個を放り投げた。


ギシャァアアア!!!!


大きな雄たけびを上げて、ゴブリンとトロルは私達の方へ向って走って来た。


「あなたはゴブリンを、私はトロルを。いいわね。」


「あぁ。」


「行くわよ!」


言って、私達は走る。目の前には巨大なトロルが、私に向かって再度雄たけびを上げる。


…トロルとゴブリン。世間一般的に言うと、回復力が半端ねー魔物と、脳みそがハエ以下の魔物…。
トロルは今言ったままの回復力を持つ結構厄介な魔物で、並の剣士でもトロルを斬るのは至難の技である。
ので、彼にトロルを任せる訳にはいかない。…し、ちょっと不安すぎる。
だから、私が請け負った訳である。
…本当は私もちょっと面倒くさいんだけどねー。


「…とわ言え、さっさとやっつけちゃおっ!」


そう言うと、私はトロルの真下に潜り、呪文を唱え始めた。


「…蔦の鉈(リィーヴィー・ダム)!!」


ずだだだだっ!!!と、すぐそばにあるツタ達は、トロル目掛けて突っ込んで行く。
これは、私のオリジナルの魔法で、自然の精霊達の力をちょーっとだけ借りた魔法で、こう言う風に自然の木やたくさんの自然がないと出来ないのだが…。


「火は効かず風でも斬れない…だが、だからって…そんなむごいやり方をしなくても…。」


彼は、ゴブリンを片付けつつ、少し呆れた表情で私に言った。


「だって…や、確かにむごいって言うかご飯前にはみたくないわねー。」


私は余裕の表情で、残りのトロル達も次々に倒して行く。
…もちろん彼も、べしべしこけながら、ザクザクとゴブリンを倒していた。


「…さーて、こんなもんかなっ?」


最後のトロルの死骸を蹴って、ゴブリン共々火炎術で焼き払う。


「…お前さん、言動の割にかなり慣れてるんだな、魔物との戦い。」


「言動の割にはってどういう事?私はよく、これよりも強い魔物と日々やりってるけど…コーンドラゴンとか。」


「コーンドラゴン!?」


私がケロリと言うと、彼は面白いくらいのオーバーリアクションを残した。

…わー、からかって遊んだらきっと楽しいだろうなー。


「ま、私はそれだけの実力者って事よ。…それにしてもね、そろそろ名前くらい名乗ってもいいんじゃないの?私だけ知られてるだなんて、フェアじゃないじゃん!」


「…そう言えば、まだ名乗っていなかったな。
俺はレオン、レオナルド=セダンだ。レオンでいい。」


そう言って、右手を差し出す彼の手を、私は取った。


「そ、よろしくね、レオ。」


「…レオンでいいと言ったはずだが?」


不満そうに、しかめっ面で私にそう言うレオ。


「それじゃあ面白くない!みんなが言う名前より、レオの方が格好いいし、短くて呼びやすい!!」


「…まぁ、あんたがそう呼びたいんなら俺は構わないが…。」


「じゃあレオね!…と、この先の事なんだけど、さっき言った通りトリーニシティに行くけど…異存はない?」


「あぁ、さっき言ってたクラムチャウダーとか言う領主に会いに行くんだよな?」


「……クラムチャウダーじゃなくて、カムチャッカ!!
あんた前も間違えてたよ!…あえて突っ込みはしなかったけどさ…。」


「…気にするな。」


「や、気にするし。」


私の突っ込みを受けて恥ずかしいのか、レオはぷいと向こうを向いてしまった。


「…ま、いいや!とにかく、トリーニシティに急ぐわよ!!」


「あぁ。」


…と言うふうに、私とレオは、またしてもナタカーシュの森を進んで行くのだった。


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