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□出会いは突然に
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くらいくらーい森、ナタカーシュの魔境。
草は一々ツタなんぞ巻いて、通行人を通せんぼしている。
私はこんな中、おもーい袋を腰に下げ、ずたずたと泥まみれの道を歩いていた。


…と、言うのもだ。トリーニシティのロード…もとい領主様からお使いを頼まれて、ふもとの村のじいさんに薬を届けろとのこと。
んなもん自分で行けや。そう思う人も少なくないだろう。が、でも報酬額時過払いで金貨100枚じゃあ…手を打つしかないでしょ?
…カネの亡者だとか言わないで。


って、自己紹介しなきゃ私が誰か解らないわよね。
私はフローライト=クラワルド。愛称はフローよ、まあ気軽に呼んで!
私はとある目的の為に一人旅をしてるんだけど…ま、趣味でロード印または領主印の付いたコインなんかも集めたりしてる。
あれ、めちゃくちゃ便利なんだよねー。持ってるだけでその国の中のありとあらゆるものが安く買えるし、しかも危険区域とか入りまくれるし「盗賊や山賊から取られたモノを取り戻して!」とか、「お使い頼んだ!」みたいな依頼でも金貨がっぽがぽもらえるし!


「…って、自己紹介はこのくらいにして…と。」


私は結構開けた場所に出ると、辺りを一瞥した。


んーっと、人かな。精々十人ってところか。


「出て来なさい!付けられてるのはもうはじめっからバレバレなんだから!」


ガサッと僅かに茂みが揺れる。


「ナタカーシュの森に入った時からよねえ!あんた達が私をつけてたのって!
…それだけの数で私を倒せるとでもおもってんの?」


私は鼻で笑い、向こうを挑発する。
すると、少し離れた草むらからちょうど十人の盗賊…いや、山賊が現れた。


「へっへっへ…負けん気の強い嬢ちゃんだ。」


げへっ、げへっ。


うわ、気持ちわりぃ。
まるで腐った牛乳と卵を混ぜて、アンキロプスの体液を混ぜたような…いや、あえて一言で表そう。
ざっ、あぶらぎっしゅっ!


「…気持ち悪っ、べとべと…近付くな!ってか死ね!!」


「…言ってくれるなあ、さすがは王家御用達魔導士…」


「さすがで繋げてないわよ。
と言うかねえ、私を知っててたった十人で挑んでくるなんてさ、ただのくそったれね。死にたいの?」


私は不敵な笑みを浮かべ、山賊さん達を一瞥した。


「…いいわ、まとめてかかってらっしゃい。」


中指を立てて、くいくいっと挑発する。


「…調子づきやがってぇええ!」


お決まりのセリフを吐き捨てて、ある者はダガーを、ある者は弓、ある者はロングソードを携えて私に向かって来た。


「…ふっ、一発で片付けて…」


「…待て。」


「………あーあーあー。」


一人の男の声で、私の詠唱が途絶えた。


「一人の女に寄ってたかって攻撃するとは…人の片隅にも置けないな。」


ザッザッザ、と…なにやら格好付けてるツンツン頭の、フードを深くかぶった男が、何本ものダガーを携えて、私の前に立った。


…誰だよこいつ。


「…ちょっと、邪魔しないでよ。これは私の獲物よ。」


「関係ない。俺はこいつらに用がある。」


むかっ。


「……関係ないって…あんたが横入りして来やがるからでしょ⁉」


「……。」


「…無視すんな!!」


男はすました顔をして、敵…要するに山賊の方を向いて、言い放つ。


「…オイ、この女はどうでも良い。それよりも俺から取って行った荷物を返せ。」


どうでもいいってなによ!


「…って言うかあんた、男のクセにこんな奴等からモノ取られたの?」


「………。」


また無視かいっ!


「……ご、ゴチャゴチャうるせえ!」


「黙れ!!」


ぐきゃっ!


私と男の拳が、一人のあぶらぎっしゅの顔面を捉えた。
…こうなったら仕方ない、私一人でもじゅーうぶんだが、仕方ない…仕方ないので!協力して戦うことにしよう!


「ちょっとあんた!コトがコトだから、協力したげる!」


「…別にいい。」


「…あたしが良く無いの!私の攻撃に巻き込まれないように、十分気を付けなさい!」


「…なにを、」


「風の刃(ウィンブレイド)!」


男の言葉が終わる前に、呪文の詠唱が終わっていた私は、目前の敵に向かって攻撃呪文を放った。
風の刃は、周りの風の向きを少し変えて小さな渦を作る。それに少し鋭さを加えて、自然のダガーを作り上げた。


「…ぐあっ!」


「くっ、」


殺傷能力は無きに等しいが、度胸無しの大バカものにはいい脅しになる。


「危ないだろうが!」


「…避けてって言ったでしょ!」


言い合いながらも相手を見ると、まあ…まあまあな剣の使い手である。


「はあっ!」


「…うわっ!」


「………うっそー。」


敵の攻撃を受け、まともにバランスをを崩した彼は、ずべしゃっっ!!!…と、見事にコケた。


私は、心配になって彼の近くに近付く。…ちなみに山賊さんは、彼のあまりの失態に言葉を失い、ある者は同情の涙を浮かべていた。


「…ちょっと、大丈夫…?」


「……問題ない。」


少し涙を堪えながら、血を拭う。


「まあいけるんならいいけどさ、無理ならそっちで休んでなさいよ。私が後片付けたげるからさあ。」


「…いや、いい。自分の分は自分で取り返す。」


男はまたキリッと表情を戻し、敵に突っ込んで行った。
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