おはなし

□リストカット
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ーーもう全てがどうでもいい。

少女は唇を噛み締めながら、カミソリを手に当てる。少女を理解するものは誰もいない。あるのは空っぽの魂だけで、肉体は痩せ果ててガリガリだった。

ーー動じない心と、揺るがない愛が欲しい。

少女はそう強く願った。さあ今こそ、決心の時だと言わんばかりにカミソリを横に引くと、一筋の血が滲み出た。こんなので死ねるはずはないけれど、少女は何故だか生まれたての赤子のように歓喜した。

気持ちがいい。少女は痛みよりもカミソリの感触に身を震わせた。これはもはや、エクスタシーの領域だ。少女はそう思い、口元を緩ませた。

依存。少女は今後、リストカットの虜になることを瞬時に予測した。手首から始まって二の腕にわたり、太ももを切るまでに及ぶころ、少女は何かの答えを見つけられるだろうか。それともちっぽけな紙切れのごとく、血まみれの肉体と共に散っていくだけなのだろうか。

少女は何もわからないまま、今はただ一心不乱に手首を切り刻んだ。手首は豆腐のように、クチャクチャと音が鳴っていた。傷跡の数だけ、自分という存在を奏でるかのように、少女は束の間の幸せに身を寄せた。

20150422

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