おはなし

□テスト
1ページ/1ページ

もう駄目だ。滴る汗をぬぐいながら、達也はキツく注射器を握りしめる。時刻は夜の10時。しんと静まりかえるアパートの中で、彼は足の親指にぐっと力を入れた。薬物による禁断症状が、達也を襲っていたのだ。先ほどから全身が鉛のように重く、今にも体が溶けてしまいそうなくらいに暑い。そのくせ不安感は高まり、焦燥感で頭がおかしくなりそうな思い。金は底尽きていたので、新たに薬を買いに行くことは出来ない。達也は舌打ちをしながら、何年も干していない布団の上に横たわった。ぷうんとカビ臭い布団の臭いに、達也は顔をしかめた。何か気分を紛らわすものがあればいいが、あいにく安定剤は切らしている。少しでも眠れれば良いのだが、瞼は重くならない。こんな大変な時に、電話が鳴った。携帯の画面を見ると、達也が薬物をやっていることを一切知らない友人の名前が表示されていた。無視して出なくても良いのだが、気分を紛らわすために達也は電話に応じた。

「もしもし」

「あ、達也?同窓会のことなんだけどさ。お前出席できるか?」

電話に出たことを後悔しながら、達也はだるそうに返事をした。

「さあ。ちょっと今の時点じゃ分からないや。また今度連絡するよ。じゃあな」

「あっちょっと待てよ。お前仕事とか何やってるの?」

「あ?別になんだっていいだろ」

「いいじゃねーか。教えろよ」

執拗に仕事のことを聞いてくる友人に、達也ははらわたが煮えくりかえった。どうだっていいじゃねーか。それよりも何よりも、禁断症状で身が引き裂かれそうな思いだったので、達也はついに怒鳴り声を上げた。

「ガタガタうるせーんだよ。もう一生電話してくんな。前から言おうと思ってたんだけど、俺はお前のこと嫌いなんだよ」

憎しみを露わにさせながら怒声を放つと、清々しい気分に胸がすうっとした。そのまま勢いよく電話を切ると、達也はタバコに火を付けた。こうやって人は、孤独になっていくのだろう。達也は気だるげに煙を吐きながら、目を狐のように細めた。そうだ、酒があったんだ。達也は嬉しそうに台所に立つと、酒瓶を手に取り瓶ごと呑み下した。熱い液体が、食道に流れ込み胃袋を膨らませた。酔いがあとからやってきて、達也は顔を赤くさせた。夜はまだ長いので、達也は友人を一人失った今日という日に乾杯をした。窓の外の月を見ながら、少しだけ寂しそうに。

20141003

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ