おはなし

□焼肉
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顔の上に肉を乗せると、あとは焼くだけ。肉は兵庫県で生産された神戸牛で、上等な酒もある。ゆっくりと炙るようにガスバーナーを頬に近づけると、今まで黙っていた千尋が口を開いた。

「どうしてこんなことするの?」

その声は少しふるえていて、まるで幼女のようだ。頬に肉を乗せていなければ、天使のように可憐な顔だった。千尋の顔を見て頭が脈打つくらいに興奮を覚えた敦は、グラスを片手に息をのんだ。静寂な部屋にごくりと鈍い音が響きわたると、千尋のまつげが少し震えた。

「遊んでないと、僕はだめになるから」

敦はそう言うと、ガスバーナーのスイッチを入れた。勢いのある火が猛威をふるい、薄暗い部屋を明るく照らす。

肉を顔の上で焼こうと決めてから、準備やら何やらでかれこれ一時間が経過していた。もういいかげん待っていられないとしびれを切らした敦は、千尋の顔に火を近づけて一気に肉を焼いてやった。

みるみるうちに部屋中に焦げ臭い匂いが充満し、彼女の頬に一筋の肉汁が滴る。さすが神戸牛、綺麗な焼き色だ。千尋はひたすら目をつぶって、熱さをこらえている。

想像を絶する痛みなのか、彼女の鼻先に油汗が見え始め、そのおかげでさらに肉は勢いよく焼けた。

いい具合になると、敦は口に肉を放り込む。千尋の肌の上で焼けた肉は、最高にうまく感じた。けれど少しだけ油が足りないと感じたので、千尋の腕や足をぶん殴って、痛みによる油汗をさらに抽出した。最高の味だった。

すべての肉を食べ終わると、夜があけていた。神戸牛も酒もすべてなくなり、残ったのは千尋の細くて白い、亡骸だけだった。


終わり

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